鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

上司と部下は仕事の前では平等

[要旨]

本田技研工業では、「技術の前で平等」という伝統を大切にしているそうです。このことによって、同社の従業員は自律的に働くことができ、事業活動の効率を高めています。一方で、多くの会社は、上司が部下の意見を尊重する組織風土がないことから、指示待ち型の従業員が増え、事業活動も効率の悪いものとなってしまっているようです。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「生きている会社、死んでいる会社-『創造的新陳代謝』を生み出す10の基本原則」を読み、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。遠藤さんは、自律した従業員の育成について本田技研工業の事例を紹介しています。「ホンダは、『技術の前で平等』という伝統を大切にしている。技術を検討する際には、上下は関係ない。役職が高いからといって、上司が自分の主張を部下に押し付けることは許されないし、部下も自分なりの意見、主張を必ず持つことが求められる。

『(大切なことは)担当者自身の判断が入っているかどうかであり、言われたことをそのままやるのか、自分の判断によってやるのか、担当者が自律しているかどうかが問われているのである』と、本田宗一郎は指摘する。これは決して技術だけの話ではなく、あらゆる仕事において経験則は大事だが、逆に経験則に縛られると、新しい発想は生まれにくい。フレッシュな眼で見るからこそ、気づくことは多い、つまり『仕事の前では平等』なのである。上司の発言を命令や指示として無批判に受け止めるのではなく、一人ひとりが自分で考え、自分なりの意見をもち、自分で判断する。日常的なこうした積み重ねこそが、自律した従業員を育てるのである」(305ページ)

従業員の方が自律している会社は、事業活動の効率が高いということは、誰もが理解すると思います。ところが、これを実現することも、頭で考えるほど簡単ではないようです。遠藤さんは別の部分で指摘していますが、部下に「もっと意見を出して欲しい」と要望を出した上司に対し、実際に部下が意見を言っててみたところ、「偉そうなことを言うな」と機嫌を悪くされたという会社は、実際に存在し、かつ、珍しくないようです。私も遠藤さんと同じように感じていて、むしろ、残念ながら、そのような会社の方が「デフォルト」だと思っています。

その一方で、社長や部長が、部下かから見て権威がなかったら、何のための社長や部長なのかと考える方も多いと思います。でも、繰り返しになりますが、部下が自分で判断することが許されていなければ、自律的な行動はできません。部下に自律的に動いてもらうということは、部下の考えを尊重するということと同じことです。しかし、多くの上司は、「部下に自律的に動いてもらう」という意味を、「部下に、上司の考え方を察したり、忖度したりしてもらい、上司が何も言わなくても上司の考えている通りに動いてもらうこと」と考えているのかもしれません。

冷静に考えれば、部下がそんなことをできるわけはないですよね。仮に、それをできる部下がいたとしたら、その部下は、すぐにその上司を飛び越えて出世するか、遠くない将来、退職して自分で会社を起こすと思います。したがって、上司は、部下に威張ることが役割ではなく、部下に高いパフォーマンスを発揮してもらうようにすることが役割と考えるべきでしょう。その方法のひとつが、本田宗一郎氏のいう「技術の前で平等」という考え方なのだと思います。

2022/8/1 No.2056