[要旨]
一般的に、中小企業の経営者は、会社において上限無き責任と権限を有しており、例外的な存在になりがちですが、大阪市の三和建設では、社長は免罪符を持っているということはなく、社長も従業員と同じく清掃に加わったり、他の人から360度評価を受けたりしています。こうすることで、従業員のモチベーションが下がらないようにしているそうです。
[本文]
前回に引き続き、今回も、三和建設社長の森本尚孝さんのご著書、「人に困らない経営-すごい中小建設会社の理念改革-」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三和建設では、社内の日報システムを活用し、部下、上司、社長のすべての日報が、入力され次第、全方向で閲覧できるようにすることで、組織の風通しをよくすることを実現していますが、そのことによって、不都合な情報が握りつぶされるという懸念がなくなり、従業員の方に安心感を持ってもらうことが可能になっているということを説明しました。
これに続いて、森本さんは、社長が例外的な存在となることは好ましくないということについて述べておられます。「経営者は、会社において、上限無き責任と権限を有しており、あらゆる意味において、例外的な存在になりがちである。むしろ、例外的であることが容認されているケースの方が多いように思う。社長が、日々、何をしているのか、どこにいるのか、まったくわからないという会社も多い。
社長は特別な仕事ををしているのだから、それでよいという免罪符がまかり通っているように思う。しかし、さまざまな取り決めやルールを決めても、社長や役員だけは免除されているとなれば、メンバーのモチベーションは上がらない。三和建設では、社長の行動予定は基本的に社員に公開されている。また、社長も社内システムSODAを用いて日報を作成する。水曜日に行う習慣清掃や、日替わりで行う玄関の清掃についても、社長は除外されない。(中略)
三和建設では、いわゆる360度評価も導入している。会社で定めた『行動指針』を実践できているかに関して、全員が匿名でほかの社員数名からフィードバックを受けるというものだ。人事評価に直結するものではないが、普段、自分では気づいていない点を、他人から指摘されることで、自己評価を促すという目的がある。この360度評価は社長も例外ではない。評価表には自由記述欄もあるが、そこには社長である私に対しても忌憚のない指摘がなされている」
いわゆるオーナー会社では、社長の責任は他の従業員の責任と比較した場合、何十倍、何百倍も大きいということは、ほとんどの方がご理解されると思います。そういった面から鑑みれば、オーナー会社の経営者が大きな権限を持つことは当然です。その一方で、オーナー会社の経営者であっても、従業員の方に、「もっと自律的に活動して欲しい」と考えている方も多いと思います。ところが、経営者が部下に対して、「どんどん改善を提案をして欲しい」、「何か疑問に感じることがあったら言って欲しい」などと、口では言ってみても、社長が例外的な存在であれば、心の中で、「自分たちが何か言っても、どうせ、最後は社長がひとりで決める」と感じてしまえば、何も意見は出てこないでしょう。
仮に、社長が、「自分はそんなことをするつもりはない」と考えていても、例えば、従業員は守っているルールがあっても、社長はそれに縛られていないという状況であれば、従業員は、どうしても、社長は例外的な存在と感じてしまいます。もう少しありていに書けば、オーナー会社の場合、経営者と従業員の関係が、王様と召使のようになっている場合もあります。そこで、三和建設のように、社長や役員は免罪符を持っていないという状況を、徹底してつくる意義があるのだと思います。
2024/2/3 No.2607