[要旨]
ニトリでは、従業員の方を計画的に配置転換する方法で、人材育成をしています。配置転換する中で、従業員の方の適性がわかり、従業員の方の長所を活かすことができるようになります。このような方法は、効果が現れるまでに時間がかかるものの、確実に競争力を高めることができます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ニトリホールディングス会長の似鳥昭雄さんのご著書、「ニトリ-成功の5原則」を読で、私が気づいたことについてご紹介します。ニトリでは、人材育成の方法として、「配転教育」を行っているそうです。「ニトリでは、『配転教育』という方針を採っています。どんどん部署を変えて、社員にいろいろな仕事を覚えてもらうことです。(中略)配転教育のよい点のひとつは、それぞれの人の隠れた長所を発見できるということです。
ひとつの仕事だけやっているときには見えなくても、『この人にこれをやらせてみよう」と考えてやってもらって、初めて、『ああ、こういうことが得意だったのか』とわかってくることが、よくあるのです。社員一人ひとり、年齢も違えば、職種も違い、それぞれが持っている資格や技術も違います。その人に本当に何が向いているのかは、過去の経験からだけではわかりません。やらせてみて初めてわかるのです。スペシャリスト志望の人にもマネージャー職を経験してもらうのも、ひとつにはそういう考えからです。
私の場合も、お店で接客をしている間は全然ダメで、そちらを妻に任せて、仕入れや配送を専門にやるようになってから、ようやく『自分は仕入れが得意だ』とわかったのです。(中略)このように、短所はわかりやすいのですが、長所は本人もわかっていないことが多いのです。周りの人がじっと観察して、見つけようとしなければ見えてきません。ニトリでは、それは、上司の役割です。部下を持ったマネージャーは、部下の短所を見て文句を言っているようではダメで、長所を見て、それを活かして有効に使うようにしなければなりません。そうでないと、部下も伸びないし、業績も上がりません。(中略)
配転教育では、配転が遅いほど覚えが悪いということで、同じ部署に何年もいる人は、上司から『成長していない』と見られているのです。(中略)仕事への意欲がうかがえない人については、上司を通じてイエローカードも出します。ただ、3度のイエローカードで、即、退場ということではなく、何回かチャンスを与えます。(中略)進み方は遅くてかまいません。大切なのは、成長を続けること、決して立ち止まらないことです」(107ページ)
この「配転教育」は、ジョブローテーションとも呼ばれますが、特に、中小企業ではあまり実施されていないようです。その最大の理由は、中小企業では、仕事が属人化しているからでしょう。経営者の方も、仕事が属人化している状態は好ましくないということは理解している場合が多いのですが、一方で、ジョブローテーションを実施しようとすると、ある程度、従業員数に余裕が必要だったり、業務に滞りが発生したりするというデメリットがあるため、なかなか、ジョブローテーションの実施に踏み切れない面があるのでしょう。
しかし、人材が不足していたり、また、難易度の高い戦略を実施しなければならない時代にあっては、自社でもある程度の人材育成を行う必要性は、増々高まっているという面から考えれば、ジョブローテーションは避けることはできなくなりつつあると思います。もうひとつ、大切なことは、似鳥さんもご指摘しておられる通り、「部下を持ったマネージャーは、部下の短所を見て文句を言っているようではダメで、長所を見て、それを活かして有効に使うようにしなければならない」ということです。
時々、「うちの会社の従業員は、能力が低いやつばかりだ」という不満を口にする経営者の方がいますが、優秀な部下が揃っている会社は、大企業でも少ないのではないでしょうか?だからこそ、マネージャー職にある人たちは、部下の長所を見つけて活かす能力を高める必要があり、そのことが、会社の競争力を高める大きな鍵になるのだと、私は考えています。
2022/10/30 No.2146