[要旨]
阪神佐藤興産では、粗利総額を最大化するために、粗利率よりも粗利額を重視しているそうです。具体的には、1億円の工事で、粗利里10%、粗利額1,000万円の工事と、1,000万円の工事で、粗利率30%、粗利額300万円の工事なら、粗利率が低くても粗利額の多い1億円の工事をとるようにしているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、佐藤さんは、従来の建設会社は、大口の受注を得るために、労力をかけて営業活動をしてきた、すなわち、狩猟経済の活動をしてきましたが、これからは、金額の多寡にかかわらず、顧客から繰返し注文を受けるようにする、すなわち、農耕経済の活動をすべきと考え、それを実践した結果、受注が安定するようになったということを説明しました。これに続いて、佐藤さんは、会社の利益管理にあたっては、粗利率よりも粗利額を重視すべきということについて述べておられます。
「(当社では)3部門を合わせて、全社の利益率は、26%を目標にしています。(中略)私は、建設業という仕事は、足場の上に登ったり、危険を伴うので、粗利率は30%以上ないといけないと考えています。しかし、激しい競争の中で、30%の利益率を確保することは、非常に難しい。一番苦しかった時は、全社の粗利率が17%くらいに低迷していた。『赤字工事はやらない』と言っても、赤字ギリギリまで値段を下げていた時期もあったのです。粗利の率と額の問題を考えると、1年間のトータルでは、やはり、粗利の総額が多いことが一番大切です。
要は、粗利総額が年間経費を1円でも上回れば、立派な黒字企業ですから。(当社では)粗利総額を最大化するために、次のように考えます。1億円の工事で、粗利里10%、粗利額1,000万円の工事と、1,000万円の工事で、粗利率30%、粗利額300万円の工事なら、どちらをとるか?前者に決まっていますよね。率より額が大切です。ただし、同じ期間でこの1,000万円の工事が4つできるとすると、粗利額合計は1,200万円となるので、二者択一の条件なら、1億円の工事はやまて、1,000万円のこうじを4つやります。大切なことは粗利額の最大化です」
私も、佐藤さんの考え方は正しいと思います。ただ、粗利率にも注意しなければならないときがあります。例えば、ある建設会社のA社の前期の売上高が1億円で、粗利額が3,000万円だったとします。それが、当期の売上高が1憶5,000万円に増加し、粗利額も4,000万円に増加したとします。これは、粗利額が増加したという点は評価できるものの、粗利率は30%から27%に低下しており、改善をようする点と理解することもできます。したがって、私は、黒字を維持するためには、粗利額を重視しなければならないけれども、さらに、粗利額を効率的に得ることができるようにするために、粗利率にも注視しなければならないと考えています。
ところで、中小企業では、粗利額の前に、もっと重要な要素ががると考えています。それは、採算管理(原価管理、原価計算)です。というのも、多くの中小企業では、採算管理をしていません。そのため、価格競争が激しい経営環境にあるとき、採算を得ることができると考えて値決めをした閣下、後になって、それは、実は、不採算だったということが、しばしば起きてしまいます。そして、それが積み重なって、事業全体として赤字になってしまっているという会社は珍しくありません。そこで、「率」より「額」を大切にするためにも、「率」と「額」を把握できる体制を整えることが必須と言えます。
2023/12/18 No.2560