鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

手元にお金があることが競争力

[要旨]

阪神佐藤興産では、経営コンサルタントの方からの助言により、無借金経営を止め、銀行から借入を行うなどして、現在は、年商とほぼ同じくらいの手元現金を持っているそうです。このことが、一度に多くの工事を受注できることを可能にしており、社長の佐藤さんは、競争力が高まったと考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、阪神佐藤興産では、従業員のスキル向上によって、継続的な受注ができるようになったことから、粗利益率を高めて来ましたが、大手建設会社の30%には及んでいないので、1億円未満の小口の受注に絞り、顧客満足度を高めることによって、粗利益率を高めることを狙っているということを説明しました。これに続いて、佐藤さんは、同社では年商に匹敵する程度の現預金を持っていることが強みになっているということを、ご説明しておられます。

「会社は、資金繰りが立ちゆかなくなれば倒産します。当社もご紹介したように、損益面での波はありました。しかし、資金的には、赤字だった2015年度、2017年度でも、不安定になることはありませんでした。それは、その当時でも、月商の5倍以上の現金をもっていたからです。当社が資金繰りを意識し始めたのは、およそ13年ほど前、(経営コンサルタント会社の)小山社長の指導を受け始めてからです。先代の頃は、無借金の経営だったので、銀行融資を意識した資金繰りに留意する必要はそれほどなく、資金が不足気味であれば手形を割り引き、あとは損益のみに留意すればよかったとも言えます。

ところが、私が事業を継いで以降は、借入れによる事業の拡充も進めたので、経営はもちろん、資金繰りの意識も強く持つ必要が出てきました。すると、あらためて、建設業界は支払い条件がよくないことに気づかされます。一言で言うと、回収までの期間が長い。わが社が取引しているある大手企業の場合は、工事が完了した月末に検収と呼ばれる手続きがあり、それを経て支払日に約束手形を受け取ることができる。その手形のサイトが120日。着手金や中間金といった支払いはなく、事実上、1つの工事で工期が2~3か月の場合には、半年から8か月くらいは入金のない状態で仕事をやっていかなければなりません。大きな仕事を受ければ受けるほど、工期が長くなり、回収までの期間が長くなるので、資金繰りは大変です。

そうした資金状況を考えると、月商の5か月分、半年分くらいは、資金を手元に置いておく必要があり、6~7年前から、それが実現できている状態です。現在は、年商にほぼ匹敵する程度の現預金額になっています。借入残高が減少してくれば、銀行の担当者が、『また、借りてください』とやってきます。現在の低金利の状況では、借入の金利負担は軽い状況ですが、気をつけているのは、本業にかかわらない用途には使わないようにしていることです。資金面から見れば、同規模の会社で、1年間近く入金のない(状態で)億単位の仕事を受けることができる会社は、ほとんどありません。自己資金でも、借入金でもかまいませんが、手元にお金のある会社だけが、大きな仕事を受けられる。これは当社の競争力と言ってもいいと思います」

年商と同じくらいの資金を、常に、手元においておくことができるようにするにはどうすればよいのかということについては、佐藤さんはここでは言及していませんが、手元にたくさんのお金があることが、「当社の競争力」と明言していることは、注目すべきことだと思います。競争力というと、品質、価格、工期(リードタイム)、アフターサービスなどを思い浮かべる方が多いと思いますが、財務面も重要な要素ということがわかります。佐藤さんは、MQ会計を学び、さらに、それをすべての従業員にも習得させていますが、このことが会計の重要性を認識するようになった背景にあるのだと思います。

そして、佐藤さんの本が出版された2020年はコロナ禍でもあったわけですが、それにもかかわらず、融資額が減ると銀行から融資のセールスを受ける関係にもあるということは、資金調達に関する労力が少なくてすみ、本来の事業活動に多くの労力を注ぐことができるということも、競争力を高めていることになるでしょう。前述したように、どうすれば1年分の売上と同じ額の預金を持つことができるのかは後で言及したいと思いますが、現在、資金不足になるたびに資金調達を行うということを繰り返している会社の経営者の方には、資金調達の方針に関して、手元資金を厚くすることが得策であるという発想に切り替えていただき、1日でも早くそれを実現するように取り組んでいくことをお薦めしたいと思います。

2023/12/20 No.2562