鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

今日言われて今日つくって今日届ける

[要旨]

相模屋食料グループでは、社長に権限を集中させていることから、顧客からの注文に応じた、柔軟な生産を行うことが可能になっています。すなわち、受注した製品を複数の工場で生産させることで、「今日言われて今日つくって今日届ける」という、ジャスト・イン・タイムに近い納品を行うことで、競争力を高めています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、日経ビジネス編集部の山中浩之さんが、相模屋食料の社長の鳥越淳司さんに行った、インタビューの内容が書かれている本、「妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、相模屋食料では、社長の鳥越さんに権限が集中していますが、これは、全体最適の活動を実施することが目的であり、同時に、再建している個々の会社には、数値目標を与えないようにして、それぞれの会社が部分最適の活動をしてしまうことのないようにしているということを説明しました。

これに続いて、鳥越さんは、社長に権限が集中されていることのメリットとして、「陣形転換」という生産体制が組めることについてご説明しておられます。「工場が、売上・収益の責任を持たないですむことで、我々が『陣形転換』と呼んでいる、生産体制の迅速・柔軟な変更が可能になります。(中略)相模屋食料グループ全体の向上で、どの製品をどこで生産するかを調整できます。(中略)

各工場が主力製品、例えば、焼きとうふの第一工場、『ビヨンドとうふ』の第三工場、といった具合に、得意な商品に全力投球して、状況に応じて主攻を担うんです。金曜日までは第一工場が焼きとうふで主攻、週明けからは第三工場が主攻を交代してビヨンドとうふ、と。これが陣形転換の基本です。(中略)そして、これの応用として、需要に対応し切れない工場の応援があります。(中略)おとうふは、『今日言われて今日つくって今日届ける』、まとめてつくって冷蔵庫に置いておくことができない。

いわば『在庫』という概念が、ない。そして、毎日の注文量が大きく変動するんですね。セールの目玉になったりしますと、納品の6時間前に、『前の日の20倍の量を持ってきて』と言われることもあります。(中略)とはいえ、こちらも、前もって、『セールだから増えるぞ』と予測して準備しています。スーパーさんの発注担当者が、午前中に注文を出し、午後1時から3時半ぐらいまでに数字が上がってきます。発注を受けて調整し、だいたい、午後6時くらいには工場を出ます。

当社の本社工場の場合なら、100万丁のおとうふを、群馬の工場を出発して、先方の物流センターに、だいたい、夜10時には届けなきゃいけない。昼間に受注したものを、夜中に納品という、ほぼ、ジャスト・イン・タイムみたいなものです。というわけで、『あっちが足りないから、こっちでつくろう』と、陣形転換をやる機会は、頻繁に訪れるんです。その意味でも、グループ化で生産設備が、日本のあちこちにできてきた意味は大きいんですよね」(83ページ)

この鳥越さんのご説明から、相模屋食料グループでは、各工場をスマート工場のように活用していることがわかります。ちなみに、スマート工場とは、人口知能やIoTなどを活用して、複数の工場でサプライチェーンの最適化をしている工場のことを指します。経済産業省では、これからの製造業は、単に、「もの」を生産するだけでなく、「製品に付随したサービス提供による新たな付加価値の創出」が必要と考え、日本の製造業がスマート工場に変わっていくことを目指しているようです。

とはいえ、相模屋食料グループの工場は、厳密にはスマート工場とは言えませんが、ジャスト・イン・タイムに近い供給体制を実現しているという面では、考え方としては、スマート工場での生産と同じことをしていると、私は考えています。そして、この、スマート工場は、1社(グループ)だけで実践するだけでなく、複数の会社が連携して実践している場合もあります。

繰り返しになりますが、製品の価値は、製品そのものだけでなく、迅速に供給できることや、急な大量発注にも応じることができるといったことも、競争力を高めることになります。そこで、いま、競争力を高めることに苦心している方がおられましたら、この相模屋食料グループの事例を参考に、新たな供給体制の構築を模索してみることをお薦めします。

2023/12/4 No.2546