鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

中小企業も大企業病にかかることがある

[要旨]

相模屋食料のヒット商品である、「おだしがしみたきざみあげ」は、かつて、大手メーカーのカップうどんの揚げを製造していた会社の製品だそうです。その会社は、同社が再建をすることになったとき、製品開発を受動的にしか行っていなかったため、新たなカップうどんメーカーを探さなければと考えていたそうですが、相模屋食料の社長の鳥越さんの提案によって、刻み揚げを製造することになり、それがヒット商品となりました。このように、元請け会社から受動的に製造するだけでなく、自社の強みを活かし、自らヒット商品を開発しようとする姿勢は大切です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、日経ビジネス編集部の山中浩之さんが、相模屋食料の社長の鳥越淳司さんに行った、インタビューの内容が書かれている本、「妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、相模屋食料の社長の鳥越淳司さんは、業績が振るわない同業他社を、多く買収して来ましたが、買収する会社の業績は、数字だけでなく、一見すると非効率に見える強みも評価するようにしてきたが、それは、会社の評価は定量評価に偏りがちであり、定性評価も加味する必要もあるからだということについて説明しました。

これに続いて、鳥越さんは、買収した会社の中には、中小企業でありながら、大企業病になっているところもあるということを述べておられます。「相模屋に、『おだしがしみたきざみあげ』というのがあるんですけれど(中略)これをつくっている石川サニーフーズは、実は、“あの”カップうどんのお揚げを納めて会社で(中略)、そのカップうどんのメーカーさんが、お揚げを内製化するということになりまして、それで需要がなくなって、石川サニーフーズの親会社さんからうちにお話が来ました。(中略)

私どもが行ったときには、こちらの会社は『別のカップうどんの取引先を探さないと』という雰囲気だったのですけれど、ふと、工場の片隅を見たら、裁断機があったんですね。納品先の規格に合わないお揚げをカットして、違う商品で使うための。(中略)めったに使われないらしくて、放置されていたんですが、『これで最初から刻んで売ろうよ、常温で保存できて、包丁を使わずに、すぐ料理に入れるから、喜ばれるよ』と(提案しました)。

刻んで食べたときにおいしくなるように、だしがしっかりしみたお揚げをつくって、カットして、使いやすいように袋にチャックも付けて。おかげさまで、これが売れて売れて。今は専用の生産設備をどんどん入れています。(中略)考えてみると、この会社は社員数90人前後なのに、いわゆる大企業病にかかっていたんですよね。(中略)大企業病の症状は、『他人の判断基準にひたすら従って、自分では考えない』ことですから、規模は関係ないです。

大きなクライアントの規格、基準、数字に沿うことが最優先事項で、やりたいことがあっても簡単には通らないし、お伺いを立てないと、物事が動かない。そうなればどうしても、言われたことだけを黙々とやる。ロボットみたいな仕事になるわけです。まずは皆さんに自我に目覚めてもうらおうと。やりたいことに気づいて、そのために働いていただこうと。『手持ちの商品で、こんなヒットが出せたじゃないか』が、その気持ちの大きな支えになります」(31ページ)

私も、何度か事例としてご紹介していますが、岡山県倉敷市カモ井加工紙は、工業用マスキングテープを、装飾用としての用途で販売し、ヒット商品にしています。でも、もし、同社に、女性ユーザーが工場見学の打診をしてこなかったら、同社は、マスキングテープの新たな用途は発見できなかったかもしれません。このように、自社の製品には、自社では気づかない強みがあることは珍しくありません。そして、「他人の判断基準にひたすら従って、自分では考えない」、すなわち、大企業病になっていると、その強みには、ますます気づかなくなってしまいます。

ちなみに、私が顧問先にコンサルティングをするときは、SWOT分析をしてもらうことによって、隠れた自社の強みの発見をご支援しています。また、そういった活動を通して、「自分では考えない」という悪い習慣をなくして行くことも狙っています。そして、これから競争に勝てる会社は、自社の製品をどのようにしたら買ってもらえるのかという古い発想で事業に臨む会社ではなく、市場(顧客)が求めているものを自社でつくることはできないかと、「自分で考える」ことができる会社だと、私は考えています。

2023/11/30 No.2542