鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

労働分配率と労働生産性

[要旨]

事業計画を立てるにあたっては、従業員の給与を確実に支払うことができるように、十分な付加価値額を得られるものとすることが必要です。そして、付加価値額に占める人件費の割合である労働分配率や、従業員ひとりあたりの付加価値額である労働生産性を参考にしながら、事業計画の妥当性を検討するとよいでしょう。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、業績があまりよくないときに、会社の財務情報を直視することは、経営者の方にとってつらい面もありますが、どんぶり勘定のままでは、適切な資金管理を行うことができないので、財務管理は経営者の役割から外すことは避けなければならないということを説明しました。

これに続いて、渡辺先生は、会社の数字について、付加価値額と人件費から分析することが重要とご説明しておられます。ちなみに、付加価値とは、財務会計ではなく、管理会計の考え方によるもので、会社の財務諸表に直接は示されていません。この付加価値は、会社が事業活動で新たに生み出した価値という意味で、損益計算書の数字から算出することができます。ただ、ここでは詳細な説明は割愛し、会社の付加価値額は、おおよそ、売上総利益と理解してください。

また、付加価値と人件費に関する指標に、労働分配率労働生産性というものがあります。労働分配率の計算式は、労働分配率=人件費÷付加価値額×100(%)で、付加価値額に占める人件費の割合です。労働生産性の計算式は、労働生産性=付加価値額÷従業員数(人)で、従業員ひとりあたりの付加価値額を示しています。そして、渡辺先生は、それぞれについて、次のように分析するとよいとご説明しておられます。

「(1)労働生産性が低すぎないか:この数値が低すぎるということは、稼げていないことを表しています。(付加価値額は)基本的には、経常利益+減価償却費がベースになっていますから、利益を十分に上げて、機械設備などを投入し、生産性を高めていく企業は、この数値が高くなります。一方、赤字が計上されていたり、人は多いのに、効率的に売上・利益が稼ぎ出せていないと、低い数値になります。(中略)

(2)労働生産性が高すぎないか:(中略)IT化、仕組み化、効率化、利益額が十分に稼ぎ出せていて、設備投資もできているという状況においては数値が高く出ます。良い結果ではありますが、高すぎる場合には、弊害が起こる可能性があります。人使いが荒い、高すぎる目標で現場がクタクタになり、疲弊していることもあります。(中略)

(3)労働分配率が低すぎないか:(中略)この指標が低すぎるということは、2つの要因があります。ひとつは、人件費の水準が、もともと低いという場合です。(中略)2つ目は、十分稼いでいるにもかかわらず、従業員さんに還元していないという場合です。業績が伸びているにも関わらず、給料が低いままだったら、従業員さんもやる気が落ちてしまいます。(中略)

(4)労働分配率が高すぎないか:この数値が高いということは、2つの要因があります。ひとつ目は、単純に給料水準が高いということです。2つ目は、十分に稼げていないということです。稼げていないにもかかわらず、給料がそのままだったら、業績も悪化することは誰の目にも明らかです。例えば、以前は業績が好調だったので、給料も良かったけれど、今は業績が低迷していて、給料を引き下げることもできずにいると、この数値は高くなってしまいます」(44ページ)

今は、大企業が賃上げを実施しており、中小企業としても、何とか賃上げをしないと、従業員の士気が下がってしまいそうだと悩んでおられる経営者の方が多いのではないでしょうか?さらに、事業活動は従業員の方がいなければ何もできないので、給料の額をどの程度にするかということは、いまでは、中小企業にとってとても重要な判断と言えます。ですから、事業活動がうまくいくかどうかは、今後、付加価値額をどれくらい生み出すことができるかどうかということを重視しなければなりません。

すなわち、単に、売上を増やすだけでなく、給料の原資である付加価値を得られるかどうかを検討しなければならないということです。これを怠ってしまうと、売上だけは増えたけれども、給料を支払った後は赤字になったということになりかねません。(実際に、そのような会社も少なくありません)したがって、これから事業を改善するための計画では、労働生産性労働分配率を重要な指標として位置付けて作成しなければならないでしょう。

2023/4/1 No.2299