鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現場と経営は上下関係ではなく役割

[要旨]

ミスターミニットでは、かつて、経営者の機嫌を損ねた従業員は降格させられていたため、経営者が不機嫌になるような情報を伝えることはタブー視されていました。同社の業績を改善しようとして社長に就いた迫俊亮さんは、この状況を改善するため、現場の本音を伝えてもらうよう、店舗で働く従業員の方に働きかけました。その際、迫さんは、現場と経営は上下関係ではなく役割であり、人として対等なのだということを、言葉だけでなく態度でも伝えていったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長に就任したとき、まず、店舗で働く部下の要望をひたすら聞き入れることで、自分が現場を尊重していることを「形」に表し、部下が経営者に対して抱いている不信感を払拭して、部下からの信頼を得るようにしたということを説明しました。これに続いて、迫さんは、同社に長く根付いていた、「店舗の従業員は、経営者層の機嫌を損ねてはならない」という風潮を変えて行ったというご経験を述べておられます。

「『今回のタブーは何ですか?』こんなセリフが現場社員の口から出たとき、僕は心底驚いた。『タブー?ここは利益を追求する株式会社のはずだぞ?』と思ったが、話を聞いてみると、本当にいくつかのタブーが実在していた。そして、それは自由な発言を阻む高い壁になっていて、それを超えて経営サイドに聞こえてくるのは、現場の『建て前』ばかりだったのだ。(中略)要は、『経営サイドの機嫌は決して損ねてはならない』ということらしい。一例だが、『経営陣の肝煎りで導入した商品やサービスの不具合は、お客様からのクレームが続出していても、決して指摘してはならない』といった雰囲気が、過去にはあったようだ。

たとえ、職人の誇りや自信にかかわるような大切な部材であっても、もし、タブーを破れば降格の憂き目が待っている。(中略)またしても地道な作業だが、僕は現場を回るたびに、『もう、タブーなんてありませんよ』と言い続けた。自らツルハシを持って、コツコツ壁を削っていったのだ。地方の店舗を丸時も、『ぶっでゃけ、この商品、ダメじゃないですか?』と、こちらからタブーを崩しにかかった。(中略)こうして、現場と経営は上下関係ではなくあくまで役割なんだ、決して僕は偉くないんだ、人としてあなたと対等なんだと、言葉だけではなく態度で伝えていった」(75ページ)

店舗の従業員に気を遣わせて、経営者層が機嫌を損ねそうな情報を伝えなければ、従業員の方のモラールが下がるだけでなく、事業改善のための有益な情報が経営者層に伝わらず、会社の競争力が下がってしまうということは、どんな経営者の方もご理解されると思います。しかしながら、最近、不祥事を起こしている会社の多くは、このような、職場が上司に悪い情報を伝えることができない雰囲気になっていることが、その根本的な原因になっていると、私は考えています。では、容易に理解できることであるにもかかわらず、それを実践できない理由はどういうことが考えられるのでしょうか?それはひとつだけではないと思いますが、最も大きな要因は、人は感情に支配されている面があるため、どうしても、悪い情報を耳にすることは避けたいと考えてしまうからでしょう。

したがって、従業員の方が、もし、「経営陣の肝煎りで導入した商品やサービスの不具合は、お客様からのクレームが続出」していることを経営者に伝えると、降格させてしまうということが起きたのでしょう。それでは、なぜ、経営者が自らの首を絞めるようなことをしまうのかというと、これも原因はひとつだけではないと思いますが、迫さんがご指摘しておられるように、「現場と経営は上下関係ではなくあくまで役割」と考えていないからだと思います。かつて、そして、今も、日本の多くの会社では、経営者は従業員が昇格して就任するポジションなのですが、迫さんのように、ファンドから送り込まれる経営者も増えています。

もちろん、かつては、現場から昇格した経営者の方が、業績と高めることができる時代でした。しかし、現在は、経営者は、高い専門性をもってマネジメントを担う方が、業績を高めることができる時代になっています。そこで、経営者は、「現場と経営は、上下関係ではなく、あくまで役割の違い」と認識しているかどうかが大切なのだと思います。繰り返しになりますが、現在も、経営者は高いポジションにある存在と考えている方が多いと思いますが、ファンクション(役割)であると認識し行動しなければ、会社の競争力を高めることができなくなっていると、私は考えています。

2023/10/10 No.2491