鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現場は『末端』ではなく『最先端』

[要旨]

迫俊亮さんが社長に就き、ミスターミニットの業績を回復させることができた要因のひとつとして、店舗で働いている従業員の方から情報を取り入れたことであると、ご自身で分析しています。これは、同社が、顧客体験価値を高めるために、現場の暗黙知を得ることを可能にしました。そして、これが実行できたのは、迫さんが階層意識を持たなかったからと言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ミスターミニットでは、かつて、経営者層の独断で、女性客に受け入れられることを目的として、カウンターを低くしたことがありましたが、女性客からは胸元が見えていないか気になるという苦情が多発し、また、これは、事前に従業員の意見を傾聴していれば、避けることができたものでだったということについて説明しました。

これに続いて、迫さんは、ご自身が社長に就いてから、業績を回復させることができた要因は、店舗で働いている従業員の方から情報を取り入れたことだということについて述べておられます。「現場には、会社が知り得る最も新しい情報が集まっていて、現場にいる彼らは、そうした最新の情報を、皮膚感覚で取り入れている。現場は、『末端』などではなく、組織の『最先端』なのだ。

ただ、その皮膚感覚がうまく言語化され、整理されていないだけ。戦略や戦術を語る上でのビジネス用語に落とし込めていないだけだ。僕は、営業本部長時代から、できるだけ現場を回るようにしていた。社長になってからも、あまりに外出ばかりしているから、『社長が本社にいなさ過ぎる』と、役員からクレームが入ったこともあるくらいだ。なぜ、そこまで現場にこだわったのか?僕の仕事は、現場に散らばっている言語化されていない経営のヒントを集め、組み立て、戦略の形にすることだからだ。経営者である僕と現場は、それぞれの得意分野が違うに過ぎない」(52ページ)

迫さんが述べておられる、現場を重視するという考え方は、稲盛和夫さんも述べておられました。しかし、私は、迫さんの考え方と稲盛さんの考え方は異なっていると思います。稲盛さんは、製造工程の改善、すなわち、プロセスの改善の重要性を説いているものだと思います。一方、迫さんが現場を重視する理由は、現在は、顧客体験価値が会社の業績を左右する要因になっているからだと思います。迫さんは、後に、ミスターミニットのビジョンを、『世界ナンバーワンの“サービスのコンビニ”を目指す』と定めました。

そして、このようなビジョンに基づいた顧客体験価値を提供しようとするためには、現場が蓄積した知識、特に、言語化されていない暗黙知が重要です。だからこそ、迫さんは、情報は経営者層が現場に提供するものではなく、現場から経営者層が提供してもらわなければならないものだと考えたのだと思います。ただ、従来から経営者の方たちが抱いてしまう「階層意識」があると、「現場から情報を提供してもらおう」という発想には、なかなかたどりつくことができないのだと思います。したがって、時代に即した経営者の在り方で同社の経営に臨んだ迫さんは、業績を回復させることに成功したのでしょう。

2023/10/4 No.2485