鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

銀行からのショック療法

[要旨]

パン製造業の八天堂は、かつて、債務超過に陥ったとき、銀行から融資支援の停止を告げられ、また、弁護士から破産手続きの打診を受けました。しかし、それは、銀行担当者が、危機感のない社長に対して、本気になって欲しいというショック療法だったようです。その後、同社は目覚ましい業績回復を見せました。


[本文]

広島県三島市の、パン製造業の八天堂の社長、森光孝雅さんのご著書、「人生、今日が始まり『良い品、良い人、良い会社つくり』への挑戦」を拝読しました。この本の中で、森光さんは、会社が債務超過の危機に陥ったとき、取引銀行に助けてもらったときの経験が書かれていました。八天堂のピーク時の売上は4億円あったそうですが、商品の販売不振により、2001年には、その半分まで落ち込んだそうです。

そんな中、森光さんは、銀行に来て欲しいと言われ、銀行に出向いたところ、応接室で、支店長と融資担当次長から、「社長、いま、貴社はどういう状況かご存知ですか、ウチとしては、もう、追加融資はできませんので、どうか、ご了承ください」と伝えられたそうです。さらに、八天堂の担当者の職員から、一緒に行って欲しいところがあると伝えられ、翌日、広島市方面へ、その担当者と向かったそうです。そして、着いた場所は、弁護士事務所だったそうです。

「そして事務所に入り、机に向かい合って座っていると、弁護士が口を開きました。(中略)『それでは、こちらが民事再生手続きに関する書類です。それから、こちらが、破産手続きに関する書類です。こういう方向で検討しておりますので、ちょっと目を通しておいて下さい』その瞬間、私は頭を思い切り殴られたような感覚に襲われました。そして、めまいのような症状が出て、フラフラとその場に倒れそうな気分になりました。(中略)ただ、その後、すぐに民事再生や、破産の手続きが始まったわけではありませんでした。(中略)

後で、銀行の担当者にきいたところ、どうやら、本当に倒産させるつもりはなかったとのことです。(中略)私たちが、経営のことはまったく分かっていないながらも、おいしいパンをつくろうと努力していたことは知っておられました。ですから、本音のところでは、私どもを立ち直らせたいと考えてくれていたのです。ただ、明らかに経営が立ち行かなくなっている状態だったにもかかわらず、社長である私にまったくその危機感がなかったため、わざと融資担当次長に『融資を止める』といってもらったり、弁護士に『民事再生手続きと破産手続きをしましょう』といってもらったりしたのでしょう」

八天堂担当の銀行職員の方は、同社にとても愛着があり、上司だけでなく、弁護士にまで協力してもらい、森光さんを助けようとしたようです。ここまで熱心な銀行職員は少ないと思いますが、債務超過の状態でも銀行が救おうとする会社も少ないと思います。結果として、八天堂は、その後、目覚ましい業績の回復を見せるのですが、同社のポテンシャルを見抜いていた銀行もすばらしい対応をしたわけです。そして、それは、「ショック療法」をしてでも助けたいと銀行に思わせる、森光さんのひたむきな姿勢があったからだと思います。

2022/10/18 No.2134