[要旨]
上場会社の経営者は、業績がよくないときは、責任の重さから、短絡的に収支状況をよく見せようとする誘惑にかられることがあるようです。しかし、企業価値を最大化するためには、長期的な観点で経営することが大切であり、そのためには、株主などから協力を得るための働きかけを行うことが欠かせません。
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今回も、コンサルティング会社のシニフィアンの共同代表の朝倉祐介さんのご著書、「ファイナンス思考-日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」を拝読して気づいた点をご紹介したいと思います。前回、朝倉さんは、日本の会社の多くは、経営者がPL脳を持っているため、事業が伸び悩んでいると指摘しておられることをご紹介しました。ところが、朝倉さんご自身も、かつて、2013年に、ミクシィ(当時は東証マザーズに上場、現在は東証1部に市場変更)の代表取締役に就任した後は、PL脳にとらわれかけていたことがあるそうです。
「当時のミクシィは、事業も株価も一貫して悪化傾向にあり、苦境を脱する糸口をつかめない状況が続いていました。(中略)経営者であれば、業績の悪化を避けたいのは当然です。ましてや、監査法人から、『事業継続に重要な疑義』や、『継続企業の前提に関する注記』を付しかねない旨をちらつかせられると、心が折れそうになるものです。そうした状況下にあれば、たとえ頭では本質ではないことを理解していたとしても、易きに流れ、(中略)『PLを作る』手法の誘惑に心惑わされてしまうのが人情というものでしょう」
上場会社の経営者であれば、不特定多数の株主から責任を問われるわけですから、そのプレッシャーは相当なものであるということは、想像に難くありません。ですから、私は、「日本の上場会社の経営者は、短絡的な人が多い」と、軽々しく批判することは避けなければならないとも思っています。でも、上場会社の経営者には、それなりの責任があるわけですから、きちんとファイナンスを理解し、あるべき姿勢で経営に臨まなければならないとも思います。それが実行できると期待されているからこそ、上場会社の経営者は相当の評価を受けることができるのだと思います。
ちなみに、朝倉さんは、朝倉さんの考えるファイナンスを、次のように定義しておられます。「(A)事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し(外部からの資金調達)、(B)既存の事業・資産から最大限にお金を創出し(資金の創出)、(C)築いた資産(お金を含む)を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配し(資産の最適配分)、その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する(ステークホルダー・コミュニケーション)という一連の活動」
これは、朝倉さんの定義とはいえ、とても大切な考え方だと思います。特に、ステークホルダーコミュニケーションという考え方は、会社を発展させていくには、これからは増々重要になると思います。なぜなら、企業価値を最大化させるためには、株主や銀行の協力が欠かせず、そのためには、きちんとしたアカウンタビリティが必要になるからです。これについては、次回以降、説明して行きたいと思います。
2022/3/14 No.1916