[要旨]
会社の業績は、損益計算書で黒字になっているかどうかで評価するだけでは不十分であり、株主への配当を支払っても、利益が得られているかで判断しなければなりません。そのためには、WACCやROICなどの指標で資本コストを意識しながら事業を運営することが大切です。
[本文]
今回も、コンサルティング会社のシニフィアンの共同代表の朝倉祐介さんのご著書、「ファイナンス思考-日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」を拝読して気づいた点をご紹介したいと思います。前回は、会社の企業価値を高めるための新規事業に投資した結果、赤字になるときは、それは健全な赤字といえるが、それを株主などに理解してもらい、協力を得るようにするためには、ステークホルダーコミュニケーションが大切になるということを書きました。今回からは、健全な赤字について、少し詳しく説明したいと思います。
「まず、資本にはコストがかかります。資本コスト(債権者から調達した負債にかかる支払利息などの負債コストと、株主からの出資によって調達した資本に必要な株主資本コストの合計)を加重平均した、WACC(Weighted Average Cost of Capital、ワック)を、事業に対して投じたお金に対する利回りである、ROIC(Return on Invested Capital、ロイック、投下資本利益率)が上回らなければなりません。ROICがWACCより低い事業とは、高い金利で借金をして、低い利回りの金融商品に投資をしている状態だり、ファイナンスの観点から見れば、実質的には赤字の状態だからです」
これを簡単に言えば、会社の業績は、損益計算書で黒字になっているかどうかで評価するだけでは不十分であり、株主への配当を支払っても、利益が得られているかで判断しなければならないということです。(融資の支払利息も資金の調達コストですが、損益計算書上に費用として計上されているので、注意しなければならないコストは配当金ということになります)ちなみに、融資利率は株式の配当率よりも低いということは言うまでもありません。そこで、融資利率が2%の会社は、配当率は5%程度かそれ以上が妥当ということになると考えられます。
そして、会社の資本金が1億円であったとすれば、期待される配当金は500万円以上ということになります。仮に、配当をしなかったとしても、その会社の利益額が500万円以下だったとしたら、実質的には赤字と考えなければならないということです。今回説明した投資コストについては、投資の妥当性の判断や、株主などからの協力を得るために必要となる考え方ですので、経営者の方は、常にこれを意識して事業に臨むことが大切です。
2022/3/16 No.1918