鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

抵当権に関する誤解

[要旨]

抵当権は、担保物件の処分による弁済を、他の債権者に優先して受ける権利のことであり、担保を処分して弁済を受ける権利ではありません。融資を受けた人の財産を処分して弁済を受ける権利は、もともと、すべての債権者が有しています。


[本文]

事業再構築補助金に関し、抵当権(根抵当権を含む)が補助事業遂行の制約になっていることで、少し話題になっていますが、その原因のひとつは、抵当権について中小企業庁が誤解していることが挙げられると思います。一般的に、抵当権を設定する(=不動産を担保に提供する)ことは、もし、借入金を返済できなくなったら、担保物件を差し出さなければならなくなると考えておられる方が多いのではないかと思います。しかし、それは、誤解です。

民法第369条第1項は、「抵当権者(銀行など、担保の権利を有している人)は、債務者(融資を受けている会社など)、または第三者(担保となる不動産の所有者が融資を受けている人以外の人の場合、その担保提供者)が、占有を移転しないで(不動産を担保権者に引き渡さないで)債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と規定しています。この条文の後半に注目していただきたいのですが、担保権者は、「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」とあります。

すなわち、抵当権の権利者は、担保不動産を処分して融資を返済してもらえる権利があるのではなく、「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」のです。では、融資を受けている人の不動産を処分して、融資を返済してもらえる権利は誰が持っているのかというと、それは、債権者(融資をしている銀行など)全員です。

これを別の例で説明します。住宅ローンは、一般的に、融資金で購入した住宅(融資対象物件)に抵当権を設定します。そこで、もし、住宅ローンの利用者は、融資を返済できなくなると、融資をしている銀行は、抵当権の契約にもとづいて、住宅を売却し、その代金で融資の回収にあてます。

では、仮に、住宅ローンを融資したものの、銀行が融資対象物件に抵当権を設定していなかったとしたらどうなるのでしょうか?住宅ローンの利用者が、融資を返済できなくなったとき、住宅に抵当権が設定されていないので、その住宅を処分しなくてすむのかというと、そうではありません。手続きの詳細な説明は割愛しますが、銀行は、住宅を売却して融資の回収にあてる権利を持っています。

ただ、このとき、住宅ローン利用者が、住宅ローンを行った銀行以外からも融資を受けていれば、財産の処分額を、それぞれの融資額の割合に応じて案分し、債権者に配当します。ところが、住宅ローンに対して抵当権を設定していれば、住宅ローンの未回収額に達するまで、他の債権者よりも優先して、住宅の売却代金を回収にあてることができるわけです。

このような面で、融資をしている側からすれば、抵当権を設定することの利点はあるのですが、どちらにしても、融資を受けていた側から見れば、財産は融資の返済のために処分しなければならないことに変わりはありません。このように、抵当権の設定は、他の債務者に優先して融資を回収する優先する権利を得るのであり、担保を処分する権利を得るのではありません。

ここで、事業再構築補助金に話をもどすと、中小企業庁補助金によって建てた建物に抵当権を設定してはならないと定めた理由は、抵当権者(銀行)が補助金で建てた建物を処分して融資の回収にあててしまう可能性を排除したいというものではないでしょうか?そうであるとすれば、それは誤りです。抵当権は他の債権者に優先して融資を回収できる権利であり、建物を処分する権利は、補助事業を行う会社に対して融資をしているすべての銀行にあります。

ですから、補助事業で建てた建物を処分できる権利を排除するためには、その会社は融資を受けたり、買掛金を発生させたり、支払手形を振り出したりしてはならないということになります。もし、中小企業庁がこのような誤解をしているのであれば、補助金の規定は直ちに変更されるべきでしょう。なお、今回の記事の内容は、理解しやすさを優先したため、不正確な記載となっている部分がありますので、あらかじめご了承ください。

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