[要旨]
融資を受けている会社が、ネガティブな情報を伝えないことよりも、それを隠しておくことの方が、銀行にとっては困ることです。確かに、ネガティブな情報は銀行に伝えにくいですが、1秒でも早く伝えることが、最善の問題解決につながります。
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経営コンサルタントの藤原勝法さんのご著書、「銀行は、社長のどこを見ているのか?」を拝読しました。同書は、銀行から円滑な支援を受けるために活用できる、さまざまな資料が豊富に記載されており、銀行からの資金調達に苦心している中小企業の経営者の方には、とても参考になる書籍だと思います。そして、私は、同書に書かれていた、藤原さんのあるご助言に、深く共感しました。
それは。「銀行がいちばん困るのは、悪いことが起こることではなく、悪い話をかなり時間が経ってから知らされること」というものです。これは、銀行に勤務したことがない方でも、容易に理解できることだと思います。経営者の方も、自社の事業についていちばん困ることは、悪いことが起こることではなく、悪い話をかなり時間が経ってから部下の方から知らされることだと思います。
ところが、経営者の方が部下に対してして欲しいことを、経営者の方自身は、銀行に対しては、なかなか実践できないこともあると思います。これについては、理屈では分かっていても、なかなか実践しにくいということも理解できます。というのも、もし、ネガティブな情報を銀行に知らせたら、その途端、もう銀行から支援を受けられなくなってしまうかもしれないという不安を、経営者の方が抱くからでしょう。
でも、銀行に知らせても知らせなくても、問題が解決するわけではありません。そして、確かに、ネガティブな情報を知らせなければ、銀行は今まで通りの支援をしてくれるかもしれませんが、それは隠し通せるとは限りません。そして、後になってそれを知らせることの方が、銀行からの評価は大きく下がってしまうし、解決のための打ち手の数も減ってしまいます。早めに銀行に伝えれば、100%助けてもらえるとは限りませんが、助けてもらえる確率は早いほど大きくなります。ですから、事業を改善したいのであれば、ネガティブな情報は1秒でも早く伝えるべきです。
それから、経営者の方は、「銀行は晴れているときに傘を貸すけれど、土砂降りになると傘を取り上げる」という話が、頭の片隅にあると思います。そのようなひどいことをする銀行は、実際にあるかもしれません。でも、私の経験から感じることですが、本当にひどいことをする銀行は、極めて少数だと思います。そして、前述のような銀行への批判の言葉を口にする人は、自分に分が悪いところがあることがわかっていて、その結果、銀行から融資を断られたにもかかわらず、それを正当化するために銀行を批判している場合が多いと思います。
藤原さんも、「(自社の赤字が増加して)債務超過に陥ったとしても、1期くらいでは、まず、手のひらをかえしません。ただしこれも、日ごろ、(銀行と)どのようなつきあいをしているかにもよります」と述べておられます。確かに、銀行側が100%正しいことをするとは、私も考えていませんが、日ごろから銀行と疎遠にしていたり、銀行に批判的であれば、業績が傾いたときに支援をしてもらいにくいでしょう。
だからといって、銀行に対して必要以上に委縮したり、媚びたりする必要はありませんが、基本的に、銀行は融資相手の会社の味方であると考えるべきです。ぜひ、銀行との関係に悩んでいる中小企業経営者の方には、「銀行がいちばん困るのは、悪いことが起こることではなく、悪い話をかなり時間が経ってから知らされること」という言葉を、頭の中に入れておいていただきたいと思います。