鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

融資に関する銀行の返事が遅い理由

[要旨]

銀行は、融資相手の会社の生命線を握っている面があります。そこで、融資取引の方針については、常に、慎重に検討するよう心掛けています。そのため、融資を受けている会社からみると、銀行の反応は遅いと感じることがありますが、それは、やむを得ない面があります。

[本文]

7月8日に行われた記者会見で、新型コロナウイルス対策担当大臣の西村大臣が、緊急事態宣言発令に際し、休業要請に応じない、酒類を提供する飲食店に対し、金融機関からも応じてもらえるように働き掛けを行ってもらうという主旨の発言をしたことが、物議を醸しました。結果として、翌日の9日に、西村大臣は、これを撤回しましたが、この西村大臣の発言に対しては、発言後に飲食店業界からだけでなく、金融機関からも疑問を持たれました。

というのは、金融機関は、融資相手の会社の細かな情報を持っており、また、融資を行うかどうかを決める立場にあることから、融資相手の会社にどう接するかは、常に細心の注意を払っています。分かりやすい例では、業績不振のうわさが流れている会社に、地元の有力銀行が融資を継続して行うことが明らかになれば、その他の銀行だけでなく、従業員、納品先、顧客なども、安心して働いたり取引を継続したりすることができます。すなわち、金融機関は融資相手の会社の生命線を握っているとも言えます。だからこそ、融資相手の会社への取引方針については、金融機関は、軽々には、話をしないようにしています。

そこで、もし、金融機関が、融資をしていいる飲食店に対し、「貴社は、休業要請に応じていないようですが、それに応じた方がよいですよ」と伝えたとすると、それを聞いた飲食店は、「休業要請に応じないと、融資を受けにくくなるかもしれない」と、曲解してしまう可能性があります。金融機関は、休業要請に応じた方がよいとだけ伝えようとしていたとしても、前述のような立場から、それだけであるとは受け止めてもらえないことは、金融機関も認識しています。ですから、西村大臣の発言に金融機関が疑問を持つことは当然です。

ただし、今回の記事は西村大臣への批判ではありません。銀行が自社に対する返答や姿勢がはっきりしないと感じている経営者の方は多いと思います。そうなっている理由の中には、銀行が、単に、逃げ腰であるという部分もあると思いますが、それだけでなく、銀行の方針は融資相手に大きな影響力を持っているということを理解している面が大きいからです。したがって、銀行が融資相手の方針を出す場合は、必ず、組織決定を行ってから、明らかにする手順を取っています。

極端な場合、大幅な赤字の会社から、初めての融資取引の依頼を受け、明らかに断らざるを得ないような状況でも、それを受けた銀行職員は、その場では回答せず、支店内で融資取引を断る旨の協議をしてから、正式に謝絶を伝えるという手順を取っています。繰り返しになりますが、融資取引に関する銀行の返答に時間を要することは、ある程度、やむを得ない面があります。したがって、金融機関は、西村大臣の要請は、とても受け入れられるものではないと言えるでしょう。

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