鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

残業ゼロにするための条件

[要旨]

時短は、経営者が口だけで指示するたけでは実現できず、経営課題として率先して取り組む必要があります。



[本文]

日本経済新聞編集委員の石塚由紀夫さんの著書、「味の素『残業ゼロ』の改革」を拝読しました。(ご参考→ https://amzn.to/36oh2zM )私は、これまで「時短」について、いくつかの疑問を持っていたのですが、同書を読んで、それらの疑問がなくなりました。それらの疑問とは、(1)時短の実態は人件費カット目的ではないか、(2)経営者が時短を口にしても、実際には従業員に勤務時間を短くしろと指示することしか行われていないのではないか、(3)1社だけが時短をしようとしても、顧客や取引先の都合で、実践が困難なのではないか、というものです。

同書によれば、前述の私の疑問に関し、次のように書かれていました。まず、味の素では、時短によって生れた利益は、人材に再投資することを経営者が明言し、実際にベースアップも行われ、勤務時間が減ることによって従業員の収入が減らないようになっているそうです。残業が減ることそのものも、従業員にとってはメリットですが、そのことよりも収入が減ってしまうことを嫌い、時短を歓迎しない従業員が抵抗勢力になってしまうと、それが実現できなくなりますが、その点については、同社では問題はなさそです。

次は、経営者が勤務時間の短縮を指示するだけになっていないかということについても、同社では経営課題として位置づけられているようです。その解決方法はひとつだけではありませんが、例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入したり、ペーパーレス化などによって、勤務時間を短縮できるような投資が行われています。

3つめの、取引先との関係ですが、これは完全に解決できてはいないものの、社長自らが取引先の経営者に、「当社は4時30分に終業します」と伝えているそうです。これは、取引先からは、「味の素のわがまま」と映るかもしれないものの、「いずれは、1社だけではなく、日本全体がそうなる」と考えて実践しているそうです。

同社の時短への取り組みは、まだ達成された訳ではなく、引き続き実践されていくようですが、同社のように、経営者が自ら経営課題として取り組んでいる会社が現れたことを、私は、とても評価できるものと考えています。ただ、同社のような取り組み方が、本来の時短の実現の方法だと思うのですが、私が同社の取り組みを珍しく感じるのは、現在までは、残念ながら、経営者がアリバイ的に「時短」を口にしている例が多いからだと思います。

それに加え、これからは、新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動にさらなる工夫が必要になる上、人手不足が増々深刻化してく中にあっては、時短を達成できるかどうかが、事業の継続の直接的な要因になっていると思います。したがって、必然的に、同社のような取り組みをする会社はこれからも増加すると思われ、さらに、それに早く着手した会社ほど、ライバルとの競合上も優位になるものと、私は考えています。

 

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