鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

不渡り処分の猶予

4月16日に、全国銀行協会は、「資金不

足により不渡となった手形・小切手につい

て、不渡報告への掲載・取引停止処分を猶

予すること」を、全国の手形交換所へ通知

をしました。


(ご参考→ https://bit.ly/34W2Ihj


当然、これは、「新型コロナウイルスによ

り影響を受けた事業者の資金繰り支援のた

め、金融庁および日本銀行からの依頼を受

けた」ことによるものです。


ただ、これは少しややこしいのですが、手

形や小切手が不渡りになっても、不渡り扱

いにすることを猶予されるというだけで、

手形や小切手を決済できなかった会社が、

手形や小切手の決済代金の支払いを猶予さ

れるということではありません。


そこで、少し細かいのですが、手形交換の

仕組みを説明します。


取立依頼人Aから、支払人がBである手形

の取立を依頼された、取立依頼人Aの取引

銀行Xは、支払人Bの取引銀行Yへ、手形

期日に手形を送ります。


ただし、実務的には、手形は、直接、銀行

Xから銀行Yに送られることはなく、ほと

んどの場合、銀行Yが参加している手形交

換所Zに送られます。


(実際には、銀行と手形交換所の関わりは

もっと複雑なのですが、ここでは理解を容

易にするため、銀行Xと銀行Yは、同じ手

形交換所Zに参加しているものとして説明

します)


次に、銀行Xが手形交換所Zに持って行っ

た手形は、そこで銀行Yに渡され、銀行Y

は手形金額を支払人Bの当座預金から支払

い、銀行Xに送ります。


(実際には、「交換尻決済」という方法で

銀行間の手形代金のやりとりが行われます

が、ここでは理解を容易にするため、上記

のように説明します)


しかし、支払人Bの当座預金の残高が不足

し、手形を決済できなかったとき、銀行Y

は、その手形に「不渡届」を添えて手形交

換所Zに戻し、さらにその手形は銀行Xに

戻され、最終的には取立依頼人Aに渡され

ます。


そして、銀行Yから不渡届を受け取った手

形交換所Zは、支払人Bの手形が不渡りと

なったことを「不渡報告」に掲載し、手形

交換所Zの参加銀行に通知します。


これが「不渡り扱い」です。


もし、支払人Bが、さらに6か月以内に不

渡りを起こし、銀行Yから手形交換所Zに

不渡届が送られると、手形交換所Zは、支

払人Bを「取引停止報告」に掲載して、参

加銀行へ通知します。


この取引停止報告に基づき、手形交換所

の参加銀行は、支払人Bとは、2年間、当

座預金取引と融資取引をすることを禁止さ

れます。


これが、取引停止処分です。


ちなみに、手形交換所Zの参加銀行が、取

引停止処分を受けた支払人Bと、当座預金

取引、融資取引を禁止される根拠は、法律

によるものではなく、手形交換所規則に基

づくものです。


以上が、一般的な不渡りに関する事務です

が、「不渡り処分・取引停止処分の猶予」

は、上記の例で言えば、手形交換所Zが、

参加銀行から不渡届が提出されても、不渡

報告と取引停止報告の掲載を猶予するとい

うことのようです。


繰り返しになりますが、「不渡り処分・取

引停止処分の猶予」は、不渡りを起こした

支払人が、不渡報告、取引停止報告へ掲載

されることが猶予されることであって、手

形(小切手)の決済代金の支払いが猶予さ

れるわけではありません。


ここまでが前置きですが、今回、この不渡

り扱いの猶予について言及した理由は、上

記の例で言えば、支払人Bの期限の利益は

喪失されてしまうかどうかということを伝

えたかったからです。


(「期限の利益の喪失」については、こち

らをご参照下さい。

https://bit.ly/2ViZvoP


これについては、前述の支払人Bを例にす

ると、支払人Bは手形の不渡りを起こして

いるとしても、取引停止処分が猶予されて

いるので、支払人Bと融資取引をしている

銀行(これについても、ここでは銀行Yと

します)は、支払人Bに対して、期限の利

益の当然喪失事由が生じたとは判断できな

いと私は考えます。


では、銀行Yは、支払人Bに対して、催告

書を送り、期限の利益を喪失させる(請求

喪失)のかということについてですが、取

引停止処分の猶予の主旨に鑑み、これも行

わない場合が多いと思います。


しかし、新型コロナウイルス感染症の影響

とはいえ、支払人Bの業況が相当悪化し、

経済環境が回復してきたとしても、支払人

Bの業況の回復が見込めない場合は、銀行

Yは、支払人Bに対して催告書を送り、期

限の利益を喪失させることもあり得ると思

います。


したがって、もし、不渡りを出してしまっ

た会社は、融資取引のある銀行とのコミュ

ニケーションを綿密に行い、できる限り支

援を受けられるようにすることが大切にな

ると思います。


なお、当事務所では、新型ウィルス感染症

の影響を受けた会社さまからのご相談につ

いては、電子メールでのみ、無償でお受け

しておりますので、ご希望の方は、こちら

からお寄せください。

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