鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会計リテラシー

あまりよい例ではないのですが、

貸手責任というと、私は、東日本

大震災の直後の、当時の国務長官

発言のことを思い出します。


すなわち、「銀行の電力会社への

債権放棄が賠償支援法案提出の条件

となる」という主旨の発言を後日

撤回したことです。


(ご参考→ https://goo.gl/3dAiXi


これは、銀行が債権放棄をすべきか

どうかということよりも、政府が

銀行に債権放棄を求めるという

ことは、政府は電力会社の株主にも

責任を求める意図があるのかという

ことで議論が沸き起こりました。


結論として、その国務大臣は発言を

撤回したので、政府は株主の責任を

求める意図はないということが

分かりました。


ただ、これは確認はできないの

ですが、当時の国務大臣は、単に、

銀行に対してだけ債権放棄によって

負担を求めようとしたものの、銀行の

債権放棄は株主責任を果たすことが

前提という知識がなかったために、

後からそれに気づいて発言を撤回した

のではないかと私は考えています。


ここで、「銀行の債権放棄は株主

責任を果たすことが前提」と書き

ましたが、このことを理解され

ない方もいらっしゃると思います。


銀行も株主も会社に対してお金を

提供しているという点では共通

していますが、銀行よりも株主の

方が関与の度合いが大きいという

ことです。


株主と銀行の最大の違いは、株主は

株主総会に出席して議決権を行使

することができることです。


いわば、会社の当事者(=オーナー)

でもあるということです。


一方、銀行は会社の業績見て融資

するかどうかを決めることはできる

ものの、融資した後は、著しく業況が

悪化した時に融資を返済することを

請求できること以外は、会社の事業

運営に関与することはできません。


もうひとつの違いは、株主の利益は

業績に左右されるということです。


会社の業績がよいときは、それに

応じて多く配当金を受け取ることが

できますが、悪いときは配当が

減ったり無配当になったりします。


一方、銀行は会社の業績に左右

されず、最初に約束した金利

受け取ることができます。


(ただし、会計的には、会社の

業績が悪化したときに、銀行は

貸倒引当金を計上するという

ことがありますが、これは、

銀行の一方的な行為であり、

銀行と会社の約束に基づくもの

ではありません)


話しを戻すと、会社に対して

お金を提供しているという点で

共通している銀行も株主も、

それぞれリスクを抱えてお金を

提供していますが、リターンが

大きい株主は当然にリスクも

大きくなるわけです。


そこで、銀行の責任が債権放棄を

するという行為でリスクが顕在化

するのであれば、銀行よりも責任が

大きい株主は当然に株主としての

地位を失う(出資金が戻らなくなる)

という責任を負うことになります。


前述の国務大臣の、銀行は債権

放棄をすべきという発言は、

電力会社へ出資している投資家

からは、自分たちにも責任を

負わせようとしているのかと

受け止められたわけです。


今回お伝えしたいことのひとつは、

このような会計上の論理を、実は

理解している人は意外と少ない

ということです。


前述の国務大臣は弁護士資格を

持っている方なのに、このような

ことも分からなかったのかと

私も当時は驚かされました。


ただ、是非はともあれ、私が

銀行勤務時代やフリーランス

なった後も、会計リテラシー

持たない経営者の方には多く

会ってきており、それが現実で

あるということは認識しています。


京セラ創業者の稲盛和夫さんも、

かつては会社の経理担当者に、

「決算書に書いてあるこの

資本金は会社のどこにあるのか」

という恥ずかしい質問をしたと

おっしゃっておられました。


できれば、経営者の方は、会社を

管理する立場にあるので、会計の

知識は持つべきであると思うの

ですが、なかなかそのようには

いかないでしょう。


ただ、問題なのは、銀行職員の

説明を理解しようとしない

経営者の方も希に見られると

いうことです。


例えば、次のような場合に、

銀行の考え方を経営者の方に

理解してもらえないことが

あります。


(1)減価償却費を減らして

表面的に黒字となっていても、

銀行は不足する原価償却費を

利益額から控除した額を真の

利益とみなす。


(2)回収不能な資産、または、

不稼働資産がある場合は、その

帳簿価格を純資産から控除する。


(3)利益額が減少、または、

赤字を計上しているときは、

債務者格付けが下がり、融資

利率を上げることになる。


経営者の方からすれば、日々、

事業の運営に懸命に取り組んで

いるのに、銀行は数値ばかりに

とらわれていて、無機的に自社を

評価されるのは納得できない

という思いもあるでしょう。


とはいえ、銀行の示す理屈は、

決して銀行の独り善がりの論理

ではなく、会計の世界では一般的

であるということも事実です。


そして、上場会社は、銀行よりも

投資家からより厳しい視線で

会計上の評価を受けています。


一般的な中小企業は投資家からの

出資は受けていませんので、それを

意識する必要はありませんが、

銀行の見解を否定的に受け止める

よりも、第三者からの自社の評価を

知るための判断材料として受入れる

ことが、前向きな改善の活動に

つながると私は考えています。

 

 

 

 

 

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