貸手責任という言葉をときどききくことが
あると思いますが、誤って理解している
人がいるのではないかと思い、今回は、
貸手責任について述べたいと思います。
とはいえ、私は貸手責任の明確な定義を
見つけることはできませんでした。
言葉からすると、融資をする側の責任と
いうことになると思います。
融資をする側には、それなりの専門的な
能力が求められているわけですから、
それを欠くことが起きた場合は、銀行に
責任があるということになるでしょう。
例えば、年商が5,000万円の会社に
銀行が1億円の融資を行い、その会社が
その融資を返済できなくなったとしたら、
それは、銀行の審査能力が疑われる
でしょう。
また、別の例では、銀行が倒産した融資
先から差し入れられていた担保の土地と
建物を処分するために、別の会社へ融資を
して買い取ってもらったとします。
その時に、銀行は不動産を買い取って
もらった会社に、建物の一部に欠陥が
あり、修理をしなければ使うことができ
ないことを知りながら、それを事前に
告げなかったとします。
この場合、銀行には信義則(権利の行使や
義務の履行は、互いに相手の信頼や期待を
裏切らないように誠実に行わなければなら
ないとする原則)が欠けていることになる
でしょう。
ここで、ふたつめの例は、銀行側に悪意が
あるわけですから、銀行に大きな責任が
あることに議論の余地はありません。
問題となるのは、ひとつめの例です。
前述の例では、理解を促すために、前提を
やや誇張して書きましたが、少し条件を
変えて、年商が3億円の会社が、1億円の
融資を受けるとすれば、少し難しいとは
思いますが、決して無理とは限りません。
こういった場合、会社側が熱心なアプ
ローチをした結果、銀行側がそれに
応じるということもあります。
しかし、その後、その会社は多額の
融資を受けたことが裏目に出て、事業が
行き詰ってしまったとします。
このとき、銀行側にどれくらいの貸手
責任があるといえるでしょうか?
私は、銀行に貸手責任があると思い
ますが、それは、一般に認められる
貸倒損失の割合までであると思って
います。
銀行は、融資を行うにあたっては、当然、
貸倒があることを承知の上に融資を
行っています。
ですから、決算のたびに、貸倒を
見込んで、その金額を損失として
計上しています。
しかし、融資を受けた側からは、銀行は
融資の適切さを見誤ったのだから、
融資を放棄すべき、すなわち、棒引きを
すべきということを言う人もいます。
これは、飛躍しすぎで、銀行に貸手責任が
あるとはいえ、全額を放棄するまでの
責任はないでしょう。
それから、融資に関わる責任で、もう
ひとつ、多くの人が誤解していることが
あります。
銀行は、事業が行き詰った会社に
対して、全額の返済は困難だが、融資の
一部を免除するという支援を行うことで
残額の融資の返済が期待できる場合に、
(これを経済的合理性といいます)融資の
一部の免除を行うことがあります。
しかし、融資の免除をされる会社側も、
融資を免除する前提の条件として、
株主責任と経営者の責任を負うことに
なります。
その理由の説明については割愛しますが、
貸手責任(=銀行の責任)は、株主や
経営者の責任よりも軽いということです。
銀行が融資の放棄という痛みを受ける
以上、銀行より責任が重い、株主や
経営者は責任をとらなければなりま
せん。
具体的には、株主は所有する株式が
無価値となり、株主の地位も失います。
経営者は退任することが原則です。
ただし、債務の免除を受けたのち、
新しい株主が指名した場合、再び、
社長に就任する例もあります。
その場合、その社長はあまり資産を
持っていないでしょうから、再び
株式を持つことは事実上困難でしょう。
かつて、社長がオーナー社長であった
場合、融資の放棄を受けたのちに
社長となっても、株式を持っていな
ければ、オーナー社長であった場合と
比較して、権限は小さくなってしまい
ます。
以上、結論として、貸手責任は、
銀行に悪意がない限り、あまり大きい
わけではないということと、会社が
銀行に貸手責任を問う場合、自らは
それ以上の責任を負うことが前提と
なっているということです。