鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会議の弊害を避けるには

[要旨]

会議での意思決定を、参加者の責任回避として悪用されることが、しばしば見られますが、そのようなことが起きないよう、従業員の方に対して、前向きな発想ができるよう、刺激を続けて行くことが、経営者の重要な役割と言えるでしょう。


[本文]

心理学博士の榎本博明さんが、会議でおかしな決定が行われることについて、ダイヤモンドオンラインに寄稿していました。すなわち、「データの改ざん、正当性のない支出の決定、あり得ない方針の決定など、おかしな決定の多くは、会議を正式に通過」しており、会議が機能していないということを指摘しておられます。

その原因については、「会議で話し合ってみんなで決めるという体裁を取ることによって、当事者意識が希薄になり、何かまずいことが起こっても、みんなで決めたのだから自分の責任じゃないと責任回避ができるので、気楽でいられる、日本の組織にありがちな無責任体質も、この責任の分散心理に発する」と分析しておられます。この榎本さんのご指摘は、私もその通りだと思いますし、多くの方も賛同すると思います。そして、「会議」に否定的な方は、このような弊害を、その根拠としていると思います。

しかし、組織は、複数の人が集まって活動するものであることから、会議の場などを設けて構成員が集まり、コミュニケーションをとることも欠かせません。そのやり取りを、「会議」と呼ぶこともあるし、ミーティングや打ち合わせなど、ほかの呼び方もありますが、複数の人が集まって意思決定をすれば、榎本さんが指摘しておられるような、「責任回避」が起きる可能性は避けられません。

しかし、フリーランスを除き、一般的に、事業活動は、組織なしに行うことはできません。組織的な活動を行うからこそ、単独ではできないさまざまな成果を生み出すことができるからです。したがって、経営者の方は、榎本さんの指摘するような、責任回避が起きることのないよう、常に留意しなければなりません。ましてや、経営者自身が、会議を開いて責任回避をするようなことがあってはなりません。

では、経営者は、会議による責任回避が起きないようにするためにはどうすればよいのかというと、私は、次のふたつを挙げたいと思います。ひとつは、よい意味での、ワンマン体制をとることです。ワンマン体制のもとでは、会議を開く意味は薄れる面もありますが、いったん、参加者のすべての意見を聞いたあとで、最終的な責任は経営者がとるということを明確にした上で、経営者が意思決定すれば、参加者も、ある程度は、当事者意識を持つことができるでしょう。

もうひとつは、経営者が従業員に対して、常にアントレプレナーシップを持つよう、刺激をすることです。これを言い換えれば、失敗を恐れない気概を持たせ続けることです。そうすることで、従業員の方が、責任回避という後ろ向きな発想をすることを避けることができるでしょう。

ただし、このような働きかけは、経営者にとっては、難易度の高いことと言えるでしょう。でも、組織の活性化を維持するには、このような働きかけを、高い効果をもって、長期間、続けることができるかどうかにかかっています。このような働きかけは、直ちにうまく実践できないと思いますが、経営者の重要な役割として認識することが大切だと、私は考えています。

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投資家になるにはビジネスオーナーから

[要旨]

いわゆる不労所得を得るには、インカムゲインを得る「投資家」になるべきとロバート・キヨサキさんは述べておられますが、投資家になるには、ビジネスオーナーの経験が必要です。しかし、実際に、ビジネスオーナーになることは容易ではなく、ビジネスの仕組みをつくるスキルを身に着けることが必要です。


[本文]

先日、イーメディック社長の小島幹登さんが、ポッドキャスト番組で、キャッシュフロークワドラントを誤って理解している人が多いということをお話していました。キャッシュフロークワドラントとは、「貧乏父さん金持ち父さん」の著者として有名な、ロバートキヨサキさんの著書、「キャッシュフロークワドラント」に登場する言葉です。

キャッシュフロークワドラントを簡単に説明すると、まず、ビジネスパーソンを4つに分類します。その4つとは、E:会社の従業員、S:個人事業主・小規模の会社の経営者、B:ビジネスオーナー、I:投資家、です。そして、キヨサキさんは、お金持ちになるには、I:投資家になればよいが、いきなりI:投資家になることはできないので、いったん、B:ビジネスオーナーになるという過程をとるべきと述べておられます。

ちなみに、小島さんは、株式などの短期売買をする人を、キヨサキさんのいう投資家と勘違いしていたり、会社の従業員や自営業者の方が、いきなり投資家になれると考えていたりする人がいるが、それは、本を熟読しておらず、誤解していると指摘しておられます。私も、小島さんのご指摘はその通りだと思いますし、そのように考えている人にも、しばしば会うことがあります。

では、なぜ、誤解してしまう人が多いのかという理由について考えてみたのですが、誤解してしまう人は、キヨサキさんのいうビジネスオーナーや投資家について、なかなかイメージできないからだと、私は考えています。というのは、自営業・小規模の会社の経営者とビジネスオーナーの違いは、自らが事業にたずさわるかどうかということです。ビジネスオーナーは、自らが事業にはかかわらず、ビジネスの仕組みづくり(=管理業務)に徹する人です。

でも、これは感覚的に理解していただけると思いますが、自らは事業にかかわらずに会社を経営することは、実際にはなかなか難しいようです。その理由はいくつもあると思いますが、最大のものは、「リーダーとは、先頭に立って、部下たちを引っ張っていく役割」というイメージが、まだまだ強いからではないかと思います。

でも、21世紀に求められる経営者は、調整役の役割を強く求められるようになってきています。そこで、キヨサキさんのいう投資家を目指したいと考える方は、ビジネスオーナーとはどういう役割を担う人なのかということから理解すべきと、私は考えています。

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社長の所有する土地に建てた会社の社屋

[要旨]

社長個人の所有する土地の上に、会社の所有する建物が建っている場合、経営者保証ガイドラインの示す、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に該当しないと考えられます。しかし、この規定は、経営者保証を解除してもらおうとするときの判断要因としては小さいので、極端な公私混同をしない限り、あまり、問題にされることは少ないでしょう。


[本文]

知人の経営者のAさんから、経営者保証ガイドラインについて質問を受けました。その質問とは、Aさんが所有する土地に、会社が所有する社屋が建っている場合、経営者保証ガイドラインの指す、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に触れるのかというものです。経営者保証ガイドラインとは、会社が銀行から融資を受けるときに、社長の個人保証を結ぶ時の目安とする基準を示しているものです。

そして、ガイドラインの中には、「銀行から融資を受ける会社は、会社の業務、経理、資産所有等に関し、会社と経営者の関係を明確に区分・分離し、会社と経営者の間の資金のやりとりを、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、会社と経営者個人の一体性の解消に努める」と書かれています。そこで、Aさんは、自分の所有する土地に会社の社屋を建てていた場合、この規定に触れることになるのかという疑問を持ったようです。

ところで、会社の社屋とAさんの土地を、会社の融資の担保(一般的に、建物と敷地は、セットで担保契約を結びます)としている場合、Aさんは連帯保証人になることが通例なので、以下、いずれも担保になっていないという前提で述べます。これについては、明確な基準はないのですが、私は、Aさんの例は、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に該当しないと考えます。

不動産登記上は、社屋は会社が所有し、敷地はAさんが所有しているとはいえ、そもそも、Aさんの所有する土地の上に、会社が社屋を建てることができたのは、Aさんが会社の経営者であるという、密接な関係が前提だからです。したがって、これを解消するには、Aさんが会社に対して適切な価額で敷地を売却したり、一般的な相場の地代を、会社がAさんに支払ったりするという対応が考えられます。

しかし、私は、このような問題には、あまり、形式にこだわる必要は少ないと考えています。なぜなら、銀行が、経営者保証を不要と考える最大の要因は、融資相手の会社の利益が出ているかどうかだからです。仮に、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に、少しの疑義があったとしても、会社の業況がよければ、経営者保証は不要と銀行は考えるでしょう。

むしろ、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」は、100%なくすことは難しく、極端な公私混同をしていない限り、あまり問題にされることはないでしょう。したがって、経営者保証を解除してもらうためには、業績を向上させること、情報開示を積極的に行うことに軸足を置くことが賢明であると、私は考えます。なお、改めて述べますが、この記事の見解は私個人の見解であり、個々の銀行と異なることもありますので、ご注意ください。

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残業が減らない真の理由は過剰品質

[要旨]

日本の会社で残業がなかなか減らない原因は、顧客からの要望を断りにくいという慣習が強いためと考えられます。そのような、「お客さまは神さま」という発想が、従業員を酷使することにつながることから、顧客の過剰な要望は断るという姿勢を打ち出すことも必要になるでしょう。


[本文]

人材コンサルティング会社のニッチモの社長、海老原嗣生さんの、日経ビジネスへの寄稿を読みました。海老原さんによれば、欧米では、100個の製品のうち、不良品が1個発生しても許されるが、日本では、1,000個のうち1個でないと許されないので、その精度を高めるために、日本では労働時間が1割~2割増えるということです。

確かに、日本では、「お客さまは神さま」という考え方が強く、顧客の要望は断りにくいという面があるでしょう。海老原さんも述べておられますが、顧客から、「明日までに納品して欲しい」という依頼を上司が受けると、部下は無条件に残業せざるを得なくなる、しかも、その残業代が支払われないこともあるという状況が実態だと思います。

では、このような状況を、どう、解決するかというと、顧客からは無理な依頼は受けないという方針を、経営者の方が示すしかないでしょう。「味の素『残業ゼロ』の改革」という本によれば、味の素では、社長自らが取引先の経営者に、「当社は4時30分に終業します」と伝えているそうです。もちろん、4時30分に受注を締め切る会社は、顧客からみれば不便を感じることになると思いますので、不便さを上回る魅力のある製品を開発することが前提になるでしょう。

ただ、このように述べると、私が、単に、経営者に対して、難しい課題を述べているだけだと受け止められるかもしれません。でも、一方で、優秀な人材を確保するためには、働きやすい職場を作る役割が経営者にあります。顧客満足を、従業員に苦痛を与えるという犠牲によって達成させるということは、矛盾していることになります。

むしろ、いままで、多くの経営者は、「お客さまは神さま」という金科玉条を盾に、従業員を無条件に酷使してきたと言えるかもしれません。今回の内容は、経営者の方にとっては、少し、きつい内容ですが、エクセレントカンパニーを目指すための発想の転換のきっかけにしていただければと思っています。

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教え魔

[要旨]

コンサルタントや経営者の中には、独善的になって、顧問先や部下に対して一方的に教えようとする「教え魔」の面が見られることがあります。でも、教えられる側が能動的に活動できるようにするためには、相手の意見も取り入れるようにすることが望ましいようです。


[本文]

先日、日本放送協会のWebpageに、神奈川県内のボウリング場を取材した記事が載っていました。すなわち、ボウリング場の利用者の中に、頼まれていないにもかかわらず、他の利用者にボウリングを教える迷惑行為が多発していることから、それを防ぐために、「STOP!教え魔」というポスターを掲示したというものです。記事によれば、このような迷惑行為は、他のボウリング場や、ゴルフ場、ゲームセンターでも起きているそうです。

そして、教え魔は職場にもいることがあるので、他の従業員が悩むこともあるそうです。これについて、新潟青陵大学碓井真史教授は、「自分が愛している物事に貢献できて、自分が気持ちよくなれることがが、教え魔の心理だ」と解説しています。私自身にも言えることですが、コンサルタントになりたい、または、コンサルタントになったという方の動機には、「教えることが気持ちいい」というものがあると思われます。

これについては、私にも自覚があるので、決して独りよがりにならないよう、留意しています。さらに、プロコーチの君塚正道さんは、「教わる側の人がやりたいことや、その人にとっての答えを導いてあげることを意識することが大切で、例えば、AとBの2つの選択肢がある場合、『AとBのどっちをやりたい?』と尋ねることで、相手に決定権を持たせ、結果として自発的に取り組んでもらうことができるようになる」というアドバイスをしています。

私も、顧問先の事業改善のお手伝いをしていると、部外者でもあることから、その会社の改善が必要だと感じられる点が、たくさん目につきます。だからといって、片っ端からそれを指摘すれば、会社がよくなるとは限りません。そこで、私は、経営者の方の話をよく聴いてから、経営者の方の望む改善方法や改善対象を決め、それについて改善活動のお手伝いをするようにしています。

このような方法は、遠回りのように思われますが、経営者の方が改善活動に能動的に取り組むので、効率的だと考えています。そして、このような対応の仕方は、上司と部下の関係にもあてはまると、私は考えています。もし、自分は教え魔の面があるかもしれないと感じる経営者の方は、自分の指導方法について、見直してみることをお薦めします。

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業種と業態

[要旨]

業種と業態に関し、業種については、明確化されている一方で、業態については、明確な定義はないようです。そこで、業態とは、「小売業について、取扱商品の販売方法、売場面積などで分類するもの」として考えて行きたいと思います。


[本文]

業種と業態ということばは、ビジネスパーソンが普段から頻繁に使っていますが、両者の違いは何かと聞かれると、ちょっと答えにつまったので、調べてみました。とはいえ、業種については、説明はそれほど難しくないでしょう。日本標準産業分類などで示されている、建設業、製造業、卸売業、小売業などの、事業の種類ということは、容易に理解できます。

一方で、業態とは何かというと、明確な定義は見つからなかったのですが、経済産業省が公表している商業統計表の解説に、次のように書かれていました。「商業統計表の業態別統計編は、商業統計表の二次加工編のひとつとして公表・刊行される統計表で、商業統計調査を用いて、小売事業所(商店)についてその個別事業所ごとの主たる取扱商品の販売方法、売場面積などから業態の格付けを行い、それを再集計して公表しているものです」

さらに、業態区分については、百貨店、総合スーパー、専門スーパー、コンビニエンスストア、ドラックストアなどに分類しています。ですから、経済産業省によれば、業態とは、小売業について、取扱商品の販売方法、売場面積などで分類するものであり、それらは、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、ドラックストアなどがある、ということになると思います。

ちなみに、経済産業省の所管する、事業再構築補助金の基本的な考え方を示している、事業再構築指針では、「業態転換」について、「製品、または、商品、若しくはサービスの製造方法、または、提供方法を相当程度変更すること」と定義しており、小売業以外にも、業態ということばを使っているので、商業統計の定義は、一般的なものではないようです。

さらに、日本フードサービス協会の公表している、「外食産業市場動向調査」では、飲食店の業態として、ファーストフード、ファミリーレストラン、パブレストラン/居酒屋、ディナーレストラン、喫茶に区分しており、業界によっても、業態の指すものが異なるようです。ということで、業態については、明確に定まった定義はないようですが、中小企業診断士としては、「小売業について、取扱商品の販売方法、売場面積などで分類するもの」として、使いたいと思います。

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融資の小手先の面談テクニックは無意味

[要旨]

銀行に対して融資を申し込むときに、うまく面談できれば融資の承認が得られると考える経営者の方がいるようですが、実際には、財務情報が90%を占めており、面談内容については、あまり審査結果に関係はありません。したがって、円滑に融資を受けようとするときは、普段からの財務内容の改善活動が大切です。


[本文]

先日、地方銀行出身の中小企業診断士の、川北英貴先生が、Twitterに次のような投稿をしておられました。「銀行や日本政策金融公庫との融資交渉において、経営者が銀行等との面談の場で、どのような話をするか、質問にどのように回答するかで、融資の可否が決まると思い込んでいる経営者は多いが、融資の可否の90%は、面談の場以外のこと(決算書・借入返済状況・経営計画等)で決まるのであって、小手先の面談テクニックはない」

私も川北先生のお考えの通りだと思いますし、経営者の方の中にもご賛同される方は多いでしょう。でも、川北先生がご指摘されるような、思い違いをしてる経営者の方も、依然として少なくないようです。そういう経営者の方がいる理由として考えられることのひとつは、経営者自身が、自社の財務情報を見ていなかったり、会計に関する知識が乏しかったりするからではないでしょうか?

そこで、銀行に対する融資交渉も、顧客に対して行う自社商品の販売交渉と同じように、その場の折衝だけでものごとが決まると考えてしまっているからではないかと思います。もし、経営者自身が、自社の財務情報をよく見ていて、その内容を理解していれば、融資の申し込みをするときに、過去、数か年からさかのぼって現状を説明できなければ、銀行は納得しないということを理解できると思います。

でも、経営者が自社の財務諸表を理解できていなければ、そのような方が銀行に対してできることは、「いま、業況回復のためにがんばっています」、「これから、売上を増やすよう努力して行きます」というような姿勢の説明だけになるでしょう。そうであれば、川北先生のご指摘のとおり、そのような経営者は、融資の申し込みについては、銀行職員との面談以外に目は向かないでしょう。

では、経営者に会計的な知識が必要なのかということを問われると、そのとおりではあるのですが、銀行とうまく融資申し込みの説明ができるようにするために、会計的な知識を持つべきだと考えることは、少しおかしな感じがします。なぜならば、裏を返せば、銀行から融資を受けないですむのであれば、経営者は会計的な知識は不要だということになってしまうからです。

確かに、経営者の方が、会計について専門的な知識を持つ必要はないと思いますが、少なくとも、簿記3級程度の知識を持たなければ、融資の交渉の前に、まず、自社の事業の改善に関し、きちんとした判断ができないでしょう。銀行も、このような観点から、小手先のテクニックばかりに頼ろうとする、会計に弱い経営者が経営する会社に対しては、不安を感じることになるでしょう。

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