[要旨]
例えば、飲食店で、売上を増やすために、さまざまな顧客に応じることができるようにしようとして、メニューを増やせば増やすほど、仕事が複雑化し、従業員の負担も大きくなり、却って、サービスの質を低下させ、顧客からの評価を下げてしまいかねません。このように、メニューを増やすことは、一見すると、収益機会の増加と思われがちですが、複雑化は避けるべき対応方法です。
[本文]
経営コンサルタントの佐治邦彦さんのご著書、「年商1億社長のためのシンプル経営の極意」を拝読しました。同書で、佐治さんは、複雑な経営が社員の成長を阻むと述べておられます。「『幹部社員がなかなか成長しない』、このように悩む経営者は少なくありません。幹部育成に力を入れ、様々な方法で教育に力を入れているものの、思うような成果が上がらないと悩む経営者が多いのが現実です。その原因は、実は、教育の問題だけではありません。経営が複雑化していることが、最も大きな原因なのです。
ニーズが多様化している現代は、ただでさえ顧客対応が複雑化してきているのです。幹部が成長する会社は、シンプルな経営をしています。実際、大手の経営はシンプルです。経営が複雑になるということは、現場社員の即戦力化に時間がかかってしまうという問題があります。例えば、飲食店であれば、商品アイテムが50品目であれば、50品目分の商品知識を身につけさせればよいのですが、100品目あれば、2倍の商品知識を身につけさせる必要があります。また、対象顧客を絞れず、様々なお客様を対象にしている場合、それぞれのお客様の求めるサービスは違います。
そのすべてのお客様に応えるためのサービスに取り組まなければならないことも、教育を難しくしている原因です。つまり、お客様を絞り込むことができずに商品を広げれば、掛け算式に現場の業務は複雑化していくのです。スタッフが仕事をマスターして戦力になるまは時間がかかり、不慣れなままのスタッフを現場に投入すれば、顧客不満足を生み出すことにもなりかねません。顧客満足のために頑張ろうという思いで入社したスタッフがいたとしても、業務が複雑なため、商品説明するだけで精一杯という状況では、顧客の心に寄り添うサービスは、到底できません。
そのような状況では、顧客不満足を生み、お客様からのクレームが増え、スタッフのモチベーション低下の原因になってしまいます。まずは、現場のビジネスモデルを客観的に分析し、現場のスタッフたちを即戦力化できるように、シンプルにすることから始めましょう。シンプルな経営を心がけることは、スタッフ全員の心にゆとりを持たせることになります。その結果、スタッフの即戦力化や、定着率向上につながり、様々な問題を解決してくれます」
この、売上を増やそうとして、商品数を増やすことが、逆に、事業活動を複雑化することになり、顧客からの支持を得られず、売上を減少させてしまうことになるという佐治さんのご指摘は、意外と盲点なのではないかと思います。私も、これまで、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、社長が、会社の経費を減らそうとして、今まで外注していたことを内製化しようとしたところ、逆に、従業員の残業代が増加し、経費が増えてしまうことになったというような事例を見てきました。
場合によっては、残業代が正確に申告されずに、サービス残業で仕事をこなしているということもあったかもしれません。当然、違法なことは行ってはいけないことは言うまでもありません。ただ、経営者は、なんとか状況を改善しようとして、なんらかの方法を実践しようとするのですが、その打ち手が限られていることから、結果として、単純に、従業員の仕事を増やしてしまうことなるのでしょう。
しかし、佐治さんも述べておられるように、従業員の仕事を増やすことで解決しようとすることは、結局、仕事の質を低下させてしまうだけであり、本来の課題の解決にはなりにくいようです。では、どうすれば現状を改善きるようになるのかということは、後でご説明したいと思いますが、従業員の仕事を増やすことや仕事を複雑化することは、単に、負荷を大きくするだけのことであり、合理化、効率化ではないということに注意しなければなりません。
2024/1/17 No.2590