[要旨]
会社の損益計算書は、業種によって費用の構成が異なるため、従業員1人当たりの給与を得るために必要な売上高も異なります。そこで、従業員1人当たり損益計算書を従業員に示すことによって、自分の給与を得るために必要な売上高の根拠を示すことができます。このことにより、従業員により能動的な活動を促すことができるようになります。
[本文]
今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社の財務諸表を、単に、従業員に公開しただけでは、財務諸表の数字が大きいので、実感を感じてもらうことができないものの、従業員1人当たりの損益計算書を作成すると、1人当たりの売上高や利益額を把握でき、身近な数字としてとらえやすくなるということについて説明しました。
これに続いて、安本さんは、従業員1人当たりの損益計算書の活用法について、具体例を使ってご説明しておられます。「東京証券取引所に上場している、富士ソフト、大正製薬、メガネトップ3社の2011年3月期有価証券報告書を使って(中略)、個別(上場会社単体)の決算書の数字を抜き出し、1人当たり損益計算書を作ってみました。システムインテグレーターの富士ソフトは、売上高の半分を人件費として支払い、残りを外注費、減価償却費、設備費などに費やしたのち、3%が利益として残っています。
ソフト開発会社は、『人件費商売』と総称しても過言ではないでしょう。製薬メーカーの大正製薬は、売上高総利益率(粗利益)が67%と、非常に高いものの、販管費に48%費やし、最終的に15%が利益として残っています。販管費の中で大きい割合を占めるのは、広告宣伝費、販売促進費、研究開発費の3つで、合計すると、売上高の24%に達します。人件費の割合は12%ほどです。
昔から『薬九層倍(くすりくそうばい)』と言われるように、薬の売価は原価よりはるかに高く、粗利は高いですが、研究開発にカネをかけないと新製品が作れないし、宣伝広告しないと売れないということですね。多店舗展開するメガネ販売業のメガネトップは、大正製薬同様に売上高総利益率(粗利率)が69%と非常に高く、人件費、賃借料、広告宣伝費などの販管費に58%費やしたのちに、最終的に5%が利益として残ります。粗利の高いメガネも、多店舗展開しないと大量には売れません。多店舗展開するには27%の人件費、11%の賃借料ほか、相当な維持費がかかるということです。
次に、1人当たり年平均人件費は、それぞれ、590.2千円、624.6千円、422.2千円で、売上高を人件費合計で割った、『給与の何倍稼ぐか』の指標は、2.0倍、8.4倍、3.7倍となります。(中略)ただし、メガネトップは、従業員のうち、約半数の1,670人が臨時従業員(1日8時間換算した年間雇用平均人員)なので、平均人件費を算出するときには、多少人数を割り引いて計算する必要があります。試しに臨時従業員数を3割減として計算すると、495.1千円となりました。(中略)メガネトップの1人当たり損益計算書を見ると、1人ひとりが年間1,560万円以上、売らないと、利益が5%残らないことを示しています。
これを12で割って1か月に直すと130万円、さらに22で割って1日当たりにすると約6万円になります。従業員数には製造工場、管理部門、物流など、営業店舗以外の人数も含まれているので、営業店舗の担当者なら、1日最低7~8万円程度売らないといけないでしょう。顧客の平均単価3~4万円なら平日に1人、土日に3~4人ずつ売れればクリアします。実際のところはまったく分かりませんが、メガネの平均単価がもっと低ければ、クリアするのは結構大変な数字です」
安本さんの分析によって、業種ごとの特徴がよく分かります。そして、1人当たり売上高に占める人件費も明確になりました。そこで、どれくらいの売上高(または、販売客数)を獲得すればよいのかも、自ずと明確になります。前回は、1人当たり損益計算書で、会社の収益状況を身近に感じられるようになるとお伝えしましたが、さらに、費用の構成まで把握すると、従業員の方が、自分の年収を稼ぐために必要な売上高を、根拠を持って理解することができます。そうであれば、単に売上目標を与えられた場合よりも、より能動的に活動できるようになるでしょう。
2024/1/11 No.2584