鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

売価還元方式で原価を求める

[要旨]

稲盛和夫さんは、値決めをする時には、自社製品の市場価格を勘案しなければならないので、「売価還元方式で原価を求める」ことをしなければならないと述べておられます。これは、単に、市場価格に合わせて売値を決めればよいというだけではなく、その売値で利益を得られるような原価を実現しなければならないということです。したがって、自社製品の価格競争が激しい場合は、厳格な原価管理を行い、原価を下げるための対策を講じることが重要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんによれば、ヤクルトは、販売員に、「ヤクルトは国民の健康を提供する」と教え、さらに、ルートセールスによって、製品の価値を説明して販売したことから、顧客にそれを納得してもらった上で、高い価格で製品を販売できたと分析していると説明しました。これに続いて、稲盛さんは、製品の原価は売価還元方式で決めなければならないと述べておられます。

「商品には、必ず、原価というものがあります。一般には、その原価プラス利益で売価が決められており、資本主義社会においては、それが正しいと言われています。しかし、私がここで言っているのはそうではありません。(中略)『売価還元方式で原価を求める』ということ、つまり、『まず売値ありき』ということなのです。これだけ競争の激しい昨今では、原価がいくらで、いくらの利益が欲しいからと、単に、『原価+利益』という積み上げ式で、売値を算出するというやり方は通用しません。売値は先に決まっていて、後は、それで利益が取れるように原価を合わせていくということをやっていかなければならないのです。

これが、現在の市場経済の実態となっているにもかかわらず、資本主義社会における会計学では、ほとんどが先の『原価主義』のままです。(中略)ところが、それで売れなくなってくると、値段を下げて売らなければなりません。そうなれば、利益など、すぐに吹っ飛んでしまうのです。ですから、『まず売値ありき』であって、その売値に合わせるためにはどうやって原価を下げるかということを考えるのが経営なのです。その売値も、設定が安過ぎては、いくら苦労しても利益は出ませんから、『市場で通用する最高の値段』を設定しなければならない、ということが肝心なところです」(461ページ)

付加価値を高めることで、売値も高くすることは可能であっても、やはり、市場価格の影響は避けることができません。ですから、稲盛さんのご指摘するように、「売価還元方式で原価を求める」という考え方で値決めをしなければなりません。ただ、このことについては、ほとんどの方が、当然と考えると思いますが、私は、誤って理解している方も少なくないと感じています。というのは、稲盛さんは「原価を求める」と述べておられるのであり、「売値を求める」と述べておられるのではありません。

そして、「市場価格はこれくらいだから、自社の製品も同様の価格か、それより少し低いくらいの価格でしか顧客から買ってもらうことができない」と考えている方は、売値だけを決め、それで終わってしまいます。そうなると、利益額が僅かになるか、または、赤字になってしまいます。一方、稲盛さんは、「売価還元方式で原価を求める」と述べておられるわけですから、自社製品が市場価格でしか売れないとしたら、それで利益が確保できる原価で製造しなければならないわけですが、「原価を求める」会社は、あまり多くないようです。

そうなってしまう要因は、1つだけではないと思いますが、最大の要因は、原価計算を行っていないからだと思います。もう少しありていに述べれば、原価計算をしていな会社の経営者の方は、恐らく会計に明るくないので、売値だけは他社との比較で決められるものの、その売値で利益を得られるための原価はどれくらいにすればよいのか、また、利益を得られる原価を実現するためには何をすればよいのかを分析することができないためだと思います。

もし、自社製品が高い利益率を得られる製品であれば、原価計算は厳密に行わなくても利益を得られるますが、それとは逆に、価格競争をせざるを得ない製品であれば、原価管理を厳密に行わなければならないということは、言うまでもありません。価格競争で利益が出ない会社の多くは、競争が厳しいというよりも、原価管理ができるかどうかに原因があると、私は感じています。

2023/11/13 No.2525