[要旨]
稲盛和夫さんは、ヤクルトは、販売員に、「ヤクルトは国民の健康を提供する」と教え、さらに、ルートセールスによって、製品の価値を説明して販売したことから、顧客にそれを納得してもらった上で、高い価格で製品を販売できたと分析しているようです。また、このことによって、従業員は安定した給与を受け取ることができ、会社も発展してきたと考えているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんによれば、コカ・コーラは、高価格で販売されていますが、そのことによって得られた利潤を、販売促進費にあてることにより、利益を最大化していると分析しておられ、この事例から、値決めは決して安ければ良いというわけではないということについて説明しました。これに続いて、稲盛さんは、ヤクルトの値決めについてご説明しておられます。
「カルピスは、昔から大きな瓶に入って売られていて、夏になると、おふくろが、よく、水で薄めて飲ませてくれたものでした。あのカルピスの味と、ヤクルトの味は、あまり変わらない感じがします。また、ヤクルトの方が、小さなプラスチックの容器に入っています。それなのに、ヤクルトの方が非常に値段が高い。ヤクルトが出た頃も、私は、『あんなのは駄目だ』と思いました。すでにカルピスもあって、そちらの方が安上がりだし、しかも、ちゃんと整腸作用もある。どうしてあんなに小さい容器に入ったヤクルトの方が高いのだろうと、不思議に思っいたわけです。
ところが、ヤクルトは、日本全国津々浦々まで普及していき、会社もすばらしい発展を遂げていきました。日本だけに留まらず、ブラジルや東南アジアなどの諸外国でも成功しています。ヤクルトは、『ヤクルトレディ』と呼ばれる販売員が全国にいて、彼女たちがヤクルトの入ったカートを押して売っています。ヤクルトは、単価が高いから、粗利が大きい。だから、たくさんの給金を渡すことができる。彼女たちも、これなら十分な収入になると熱心に売って歩くわけです。
彼女たちは、まず、会社で研修を受け、そこで、『これは、ただ単に、清涼飲料を売るという仕事ではありません。私たちは、健康を売っているのです。これを毎朝1本飲むだけで身体にいい。国民の健康はヤクルトが提供します』と教えられるそうです。つまり、これは健康産業であり、だからヤクルトを売るのです、という大義名分まで理解してもらうそうです。ヤクルトの値決めには、こうした理由があるのです」(459ページ)
単なる清涼飲料水であれば、小売店の店頭や自動販売機で売ればよいわけですが、ヤクルトは、製品の機能が高いことから、ヤクルトレディがルートセールスを行い、その価値を、直接、顧客に説明していった結果、高価格で販売できるようになったと考えられます。さらに、「国民の健康はヤクルトが提供する」というスローガンを掲げることによって、ヤクルトが売っているものは、単なる飲みものではなく、「健康」というベネフィットであるということを、ヤクルトレディも認識し、それが販売活動でのモラールを向上させたことも、成功の要因と考えられます。
このように、ベネフィットを顧客に評価してもらうことができれば、製品の付加価値も高くすることができる、すなわち、売値を高くすることができます。ヤクルトは、日本の数少ない長寿商品ですが、それは、前述したように、ベネフィットを提供するという方針を明確にして事業活動を行ってきたことが、その大きな要因でしょう。また、繰り返しになりますが、そのことが、稲盛さんが重視しているように、高い価格で納得して製品を顧客に購入してもらうことができ、そのことによって会社を発展させてきたと、よい事例なのでしょう。
2023/11/12 No.2524