鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

使命は『失敗しないリフォームの実現』

[要旨]

かつて大阪ガスにご勤務されていた鈴木隆さんは、国内初のリフォーム仲介サイト、「ホームプロ」を立ち上げました。同業他社では、広告料収入を増やすために、加盟会社を増やしていましたが、鈴木さんは、顧客の失敗しないリフォームの実現という使命を果たすために、加盟会社の数を追わず、国内で最も厳しい加盟基準で選び抜き続けたことから、ホームプロが業界1位の成約実績を伸ばし続けてくることにつながりました。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、鈴木さんが、事業の目的は利益ではないと述べておられることをご紹介しました。これに続いて、鈴木さんは、事業の目的を利益としなかったことによって成功したという、ご自身のご経験について述べておられます。

「私自身が経験した実例をあげましょう。2001年に起業した、国内初のリフォーム仲介サイト、『ホームプロ』に関するものです。ホームプロに追随して参入したある競合他社は、ホームプロ同様、顧客の希望するリフォームにマッチした会社だけを紹介するのに加え、加盟するリフォーム会社の一覧を表示して、そこからも選べるようにしました。実際に加盟会社に顧客を紹介できなくても、解明会社の情報を、いわば広告としてつねに表示しておくことで、加盟する会社の数を増やし、加盟料や広告料からも、追加の利益をあげようというわけです。しかし、それでは、肝心のリフォームを検討している顧客が、そもそも、どちらのしくみを使えばいいのか、入り口で迷ってしまいます。

ホームプロも、当時はまだ赤字であり、そうした追加で得られる利益は、1円でも欲しかったのですが、同じことをすると、顧客の『失敗しないリフォームの実現』という、ホームプロ創業のミッション(使命)から外れてしまいます。なんとか歯を食いしばり、私たちは、顧客の希望にマッチしたリフォーム会社の紹介だけに特化を続け、加盟会社の数を追わず、国内で最も厳しい加盟基準で選び抜き続けました。ホームプロが今日までNo.1の成約実績を伸ばし続けてこられたのも、利益を第一に考えなかったお陰だと、つくづく思います。また、ホームプロを始めてからすぐに、顧客の評判がとてもよく、地域でもトップの成約実績をあげるようになった加盟会社がありました。その理由がわかったのは、その会社の社長の顧客に対するアドバイスを知ったときです。

社長は、予算100万円超の外壁リフォーム案件で現場へ調査に出向き、顧客第一に、『まだ、5年くらいは塗り替えなくても大丈夫です。時期が来たら、あらためて検討されてはいかがでしょうか?』と言ったそうです。利益を第一に考えれば、どうせ、いずれ必要になるのだから、早めにリフォームしてもらえばいい、せっかく受注できるチャンスをみすみす逃すことはない、ということになるでしょう。ところが、その会社は、目先の利益よりも顧客のことを優先しました。顧客は、もし、5年後にリフォームするときは、ぜひ、この会社、この社長に頼もうと思ったのではないでしょうか」(23ページ)

鈴木さんのお考えは、私もその通りだと思いますし、同様に考える方も多いと思います。しかし、これも、鈴木さんがご指摘しておられるとおり、いまでも目先の利益を優先してしまう方も少なくないと思います。私は、これについては、経営環境の変化について理解することで、行動を変えるためのきっかけができるのではないかと思っています。というのは、かつては、製品を作れば売れる時代もあったし、価格を安くすれば売れる時代もありました。でも、現在は、製品の良さや、価格の安さで製品は売れなくなっています。では、顧客は何をかっているのかというのかというと、そのひとつは安心感を買っていると言えると思います。

鈴木さんが開発したホームプロでは、「失敗しないリフォームの実現」を販売しているということを、鈴木さんご自身が理解していたからこそ、加盟会社を絞るという方針を貫き、それが最終的な成功につながりました。これは、「ベネフィットを買う」、「コト消費」などと言われることがあり、その考え方を理解している方も多いのですが、いまだに多くの会社では、自らの事業については、ベネフィットやコトではなく、商品そのものを売ることに目が向いてしまいがちのようです。したがって、現在は、ベネフィットやコトでなければ売れないということを強く意識することがますます大切になっていると、私は考えています。

2023/2/19 No.2258