[要旨]
経営コンサルタントの杉浦央晃さんが、かつて勤務していた会社では、「一生懸命に仕事をしなさい」と言われていたそうですが、杉浦さん自身は、そう言われなくても一生懸命働いていたつもりだったそうですが、今になって考えると、一生懸命ではなかったと思えるそうです。このように、自分では一生懸命であると考えていたとしても、他人から見ればそうとは限らないことから、自分の努力を効果のあるものとするためには、他者からの評価を把握することが欠かせません。
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今回も、経営コンサルタントの杉浦央晃さんのご著書、「もし明日自分が死んだら-残された我が子に親父から伝えたい10の言葉」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、すきなことを仕事にしたからといって、仕事が常に楽しいわけではなく、辛いことや、苦しいことも、セットになっていると考えなければならないということについて説明しました。これに続いて、杉浦さんは、仕事に一生懸命取り組むことの大切さについてご説明しておられます。「過去に就職したすべての会社で、『一生懸命仕事をしなさい』と言われました。(中略)
そして、その都度、『言われなくたって、すでに一生懸命やっているよ』と思っていました。でも、今になって、考えてみると、過去に一生懸命やっていた仕事は無かったように思います。『一生懸命』とひとことで言えば簡単なのですが、一生懸命を辞書で調べると、『全力でものことをするさま、命がけでものことをするさま』と書いてあります。そう、命がけで取り組んだ仕事は、自分が起業するまで何一つなかったのです。子どもの運動会で、足の速い子が、前日に怪我をしました。
それでも彼は徒競走に出て、びっこをひきながら走り切り、その姿に多くの拍手がおきました。負けると分かっていても、走りたい、今まで一番だったプライドも捨て、悔し涙を流しながらゴールした子どもを見て、感動したのです。(中略)人は、一生懸命やる人に、魅力を感じるのです。仕事に例えて考えた時、いま、目の前にいる、たった一人のお客様に、どれだけ一生懸命に接することができるかによって、その仕事の成果は、後に大きくかわります」
杉浦さんのご経験からも分かる通り、自分では一生懸命やっているつもりでも、ほかの人から見れば、一生懸命にやっているように見えず、認識の差が起きるということはしばしば見られます。そして、ビジネスでは、経営者が一生懸命になっているつもりだけで、顧客や部下からそのように評価されなければ、事業の成果につながりません。ただ、それほど例は多くありませんが、経営者がそれほど注力していなくても、たくさんの人に評価され、よい結果につながるということもあります。しかし、現実的にはそうならないことの方が多いので、一般的には、事業に一生懸命に取り組むことは避けられないでしょう。
そこで、私は、事業改善のお手伝いをしている会社には、PDCAサイクルを、できるだけ速く回転させることをお薦めしています。できれば、1か月単位で行うことが望ましいのですが、それが難しい場合は、3か月単位で行うことでもよいでしょう。では、「一生懸命」とPDCAがどう関係するのかというと、PDCAを回すことで、自社の事業に対する顧客や部下からの評価を把握できる、すなわち、「一生懸命」の効果が分かるようになるのです。
繰り返しになりますが、経営者の一生懸命さは、顧客や部下が、そのように受け止めていなければ、無意味になってしまいます。ですから、顧客や部下から事業活動が評価されているかどうかを、なるべく細かい頻度で把握することが、「一生懸命」の効果を高めることにつながるのです。このことは、極めて当然と考える方がほとんどだと思うのですが、PDCAを実践している中小企業は10%もないのではないでしょうか?
もう少し端的に言えば、会社の利益(=顧客の評価)は、年に1度の決算のときだけという会社は圧倒的に多いようです。このことは、普段は、経営者の一生懸命は一方通行になっているということだと思います。とはいえ、どんな会社の経営者も、自社の業績を高めたいと考えていることに違いはないでしょう。そうであれば、PDCAを実践することで、経営者の一生懸命を効果の高いものとしなければ、とてももったいないと思います。
2023/9/4 No.2455