鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

すきなことを仕事にすると…

[要旨]

経営コンサルタントの杉浦央晃さんは、かつて、バイクがすきだったので、バイク屋に勤務したことがありました。ところが、入社後は、しばらく、毎日、200台のバイクを洗うという仕事をしなければなりませんでした。すなわち、すきなことを仕事にしたからといって、仕事が常に楽しいわけではなく、辛いことや、苦しいことも、セットになっていると考えなければなりません。


[本文]

今回も、経営コンサルタントの杉浦央晃さんのご著書、「もし明日自分が死んだら-残された我が子に親父から伝えたい10の言葉」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、杉浦さんは、東日本大震災が起きた時、被災者の支援のために、ブログのヘッダー画像を作成し、それを1,000円で販売して寄付金を捻出しましたが、そのことが縁で、多くの起業家の人たちと知り合うことができ、現在は、ホームページ制作などの事業を展開できるようになったということについて説明しました。

これに続いて、杉浦さんは、ご自身の経験から、すきなことを仕事にしたからといって、必ずしも楽しいことばかりではないということについて述べておられます。「30歳の時に、バイク屋に転職したのですが(中略)、入社後、毎日、バイクを洗車しろと命じられました。店内には200台のほどのバイクが展示されており、それらを順番に洗っていくのです。バケツの水が凍っている時は、一日が終わると、手の感覚が無くなるほどでした。好きで入った会社だったのに、楽しいことなど1つもなかったのです。半年が過ぎた頃、僕の下に後輩ができました。

洗車は新入社員の仕事だったので、僕の洗車は減りましたが、あれだけ好きだったバイクが少しずつ嫌になってきたのです。(中略)でも、一度入った会社は、どんな会社でも納得して辞めてきた僕は、この会社の営業成績で1番になるまで辞められないと考えてきました。当時、世界に300店舗あるチェーン店で、営業マンは2,000人を超えていましたが、辞める年に、1度だけ、月間トップの成績を取ることが出来たのです。だから、僕は、好きなことを仕事にすれば、毎日、楽しいとか、好きなことが仕事になったら幸せなんだと言われることに、大きな疑問を感じるのです。

好きなことを仕事にしても、楽しいことばかりじゃないのです。(中略)僕が勘違いしていたのは、好きなことを仕事にしたら、毎日が、ただただ、楽しいと思っていたことです。でも、どんな仕事も楽しいことばかりではありません。辛いことも、苦しいことも、セットになっています。多くの人が、『好きなことを仕事にしなさい』と言うのは、『どうせ仕事をするのなら、好きなものに囲まれた仕事の方がよいのではないですか?』という意味だと気づいたのです」

この杉浦さんの、「好きなことを仕事にしても、楽しいことばかりじゃない」というご指摘は、多くの方がご理解されると思います。ところが、私が起業家の方の事業改善のお手伝いをしていて感じることは、起業家の方は、「マネジメント業務」も実践しなければならないということを見逃しがちだと感じています。すなわち、会社勤務のときは、上司や経営者の指示や指揮の基づいて仕事をしなければならないので、その点では窮屈に感じることはあるでしょう。

そこで、自分の考え方で思う存分仕事ができるようにするために、独立し、起業すれば、その窮屈さはなくなります。ところが、独立することによって、マネジメントも行わなければならなくなります。マネジメントとは、具体的には、従業員の管理、仕入れ先との交渉、銀行との交渉、そして、経営戦略を考えて実践し、利益を得て事業活動を継続させる責任を負わなければなりません。こう考えると、人によっては会社勤務の方がよかったと感じるかもしれません。

でも、当然ですが、私は、自らの方針を実践するために起業し、それを成功させることの方が、ビジネスパーソンとしては、やり甲斐があるし、また、成功した時のよろこびは、会社員のままでは得られないものがたくさんあると思います。ただ、起業するということは、自らは経営者になるわけですから、当然、軸足はマネジメント業務に置かなければならないわけであり、そのことが忘れられがちなのではないかと、私は感じています。したがって、繰り返しになりますが、「起業して、自分の考え方を実践するには、マネジメントもセットになっている」ということを、多くの方に忘れないでいただきたいと思っています。

2023/9/3 No.2454