[要旨]
千葉ロッテ監督の吉井さんは、コーチ時代に、選手が自分で考え、言語化した成功要因を肯定するようにしていたそうです。もし、コーチの立場でそれを否定してしまうと、信頼関係が崩れるからです。したがって、肯定的な言葉で信頼関係を築き、コーチの意見を聞き入れてもらえるようにすることが大切といえます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、コーチは選手に質問し、自分を客観視させることで、選手は自分自身で自分の良いところを伸ばし、悪いところを改善できるようになるということを説明しました。これに続いて、吉井さんは、選手が言語化した内容を、コーチは肯定すべきということについて、述べておられます。「それと同時に、選手が言語化した内容を、コーチは肯定して欲しい。肯定され続けていると、選手はコーチを信頼し、コーチの指示を聞く準備ができてくる。
とはいえ、選手が言語化した内容が、すべて肯定できるとは限らない。(中略)しかし、頭ごなしに否定するべきではない。本人は、『こうしたい』と思っているのだから、その方法ではうまくいかないことを押しつけようとしても、聞き入れてもらえない。(中略)考え方を変えてもらうには、押しつけではなく、説得が有効だ。『なるほど、そういう方法もあるのか』、そう思わせるように仕向ける必要がある。(中略)まずは、本人のやり方を容認してやらせてみる。結果として、うまくいかなかったとき、失敗の原因を言わせる。(中略)
その回答の中に、コーチとしてアドバイスしたい内容につながる言葉が出てきたら、その言葉が出てきたら、その言葉を契機にして、一気に提案してみる。有効な言葉が出てこなかったら、アドバイスしたい内容につながるように、誘導尋問を仕掛けていく。(中略)選手としては、結果が出なかったことは気づいている。悪かった点を治して、結果を出したいというモチベーションは持っている。一度目の失敗ではこちらに引き寄せられないかもしれないが、次にうまくいかなかったときに同じ提案をすれば、コーチの言うことを試してみようと思うかもしれない」(157ページ)
今回の内容は、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という、山本五十六さんの有名な言葉の内容と同じだと思います。ところが、これは多くの方が理解していると思うのですが、このような方法は避けられがちだと思います。その理由は、時間と労力がかかるからだと思います。しかし、現在は、このような方法でなければ、人材育成はますます難しくなっています。それにもかかわらず、自社に「即戦力」を求める経営者は、早晩、ライバルとの競争に敗れてしまうと、私は考えています。
ちなみに、私も、中小企業のコンサルティングをするとき、吉井さんと同じ方法をとっています。経営者の方から相談を受けたとき、恐らくうまくいかないと思うことでも、「まず、実践してみましょう」と答えます。このようなことをすると、あえて遠回りになるように思われますが、上から目線で恐縮ですが、経営者の方のモチベーションを継続するために、相談相手の方の意見を可能な限り肯定するようにしています。でも、結果的に、こうすることが、最短で成功につながると、私は考えています。
2023/5/16 No.2344