鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

上司ができても部下ができる訳ではない

[要旨]

千葉ロッテ監督の吉井さんは、日本のプロ野球のコーチには、自分ができたことは、他人もできると思い込む人が多いので、選手を混乱させていると考えているそうです。そこで、コーチは、選手に合わせた指導法を考え、それを実践しなければならないということです。これは、ビジネスにもあてはまり、VUCAの時代の現在は、個々の従業員の個性に合わせた育成を行うことが、複雑な経営環境に対応できるようになり、組織としての競争力も高くなると考えられます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、コーチは、選手との信頼関係を構築するために、選手が自分で考え、言語化した成功要因を肯定するようにし、信頼関係が深まってからは、徐々に選手にコーチの意見を受け入れてもらえるようにすることが大切ということを説明しました。これに続いて、吉井さんは、コーチは選手の視点に立つことが重要ということについて述べておられます。

「選手がどうしたいか、選手がどう感じているか、自分のアドバイスを選手がどのように受け止めているか、それを考えないコーチが多い。そこが、日本のプロ野球のコーチの足りないところだと思う。自分ができたことは、他人もできると思い込むコーチのせいで、選手を混乱させていることに気づくべきだ。コーチと選手の間で、身体を開かないという時の、『開かない』の感覚が違っていたとしたら、そこにギャップが生じる。その選手に合っていることを言っているつもりが、合わない指導になる可能性がある。選手によって、身体の動かし方によって、伝え方が異なることを理解することは重要だ」(168ページ)

この吉井さんのご指摘も、多くの方が理解できるものだと思いますが、「自分ができたことは、他人もできると思い込む」という経営者や幹部の方は、これまで私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた中で、少なくないと感じています。というよりも、経営者や幹部でなくても、多くの人は、「自分ができたことは、他人もできる」と考えていると思います。とはいえ、そう考える人も、その先輩たちから、そのような教育や指導しか受けいないのだと思います。

例えば、「仕事は見て盗め」や、「背中を見せて部下を育てる」といった言葉が残っていることからもわかる通り、日本では、「放置型」での教育が行われてきたことは事実だと思います。(私自身が会社勤務時代がそうでした)私は、そういった方法が100%間違っているとは限らないと思っています。でも、端的に述べれば、「時代が変わった」ので、かつてのような方法は通用しない時代になっているということを、経営者や幹部の方は理解する必要があると思います。

かつては、大量生産大量消費の時代だったので、一律の指導方法で、同じような人材をたくさん育成すればよかったのかもしれません。でも、現在は、VUCAの時代なので、各従業員の個性に合わせた育成を行い、組織として複雑な経営環境に対応できるようにしなければ、競争力は高くならないでしょう。さらに、現在は、部下ができるけれど、上司ができないということも少なくないと思います。

例えば、情報機器の活用は、若い人たちの方が得意ということが多いでしょう。だからといって、上司が部下に対して育成をしなくてもよいということではないと思います。上司は部下を教育しなければならに役割は担わなければなりません。だからこそ、「自分ができたことは、他人もできる」という前提ではなく、どのような指導をすることが、部下にとって最善かという方法を探り、それを実践することが、組織全体の能力を高めることになるものと、私は考えています。

2023/5/17 No.2345