鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

外国人起業家の資金調達支援事業の誤解

[要旨]

西村博之さんは、東京都が新たに定めた「外国人起業家の資金調達支援事業」を批判していますが、支援対象は、信用度が高い、永住権を取得している外国人が経営する会社であり、融資を受けた後、帰国するという懸念は少ないものです。また、融資の原資は、東京都の財政ではなく、民間金融機関の資金であり、仮に貸倒があったとしても、財政負担は少ないものとなっています。


[本文]

2ちゃんねる開設者の西村博之さんが、Twitterで、外国人起業家の資金調達支援事業を批判していました。この制度は、外国人の方が東京都内で起業したときに、その会社に対し、最大1,500万円を融資する制度です。これについて、西村さんは、「無担保なので、使い切ったら中国に戻るだけでOKです、中国まで取り立てには行きません、払うのは都民の税金、都知事小池百合子さんはアホなの」と批判しています。

私は、この制度の詳細を承知しておらず、また、必ずしも、この制度をすべて支持するのではないのですが、かつて、融資実務に携わってきたものとして、西村さんは、この制度について誤解をしていると感じました。まず、この制度で融資を受ける会社の起業家ですが、「事業活動の制限を受けていない在留資格を有していること」が条件になっています。私は、外国人の在留資格についてはあまり詳しくありませんが、事業活動の制限を受けない在留資格を有する外国人は、永住者などに限られています。

この事業活動の制限を受けない在留資格を有する外国人は、国籍は外国人ではあるものの、経済活動においては日本国籍を有する人とまったく同等であり、銀行は、そのような外国人に対しては、高い信頼を持って接します。確かに、西村さんの懸念するように、同制度で融資を受けた外国人の方が、融資金を流用し、直ちに母国に逃げ帰ってしまうという懸念はゼロではないと思いますが、そうであれば、同制度の問題の前に、永住資格を与える制度に問題があるということになります。

西村さんは、外国人が永住資格を取得するためには、相当の信用が必要ということを知らないために、単に、外国人であれば、母国に戻ってしまう懸念があると考えてしまっているのではないかと、私は想像しています。次に、この融資の原資は、税金ではなく、取扱金融機関(具体的には、きらぼし銀行と、第一勧業信用組合)の資金です。仮に、同制度の融資が貸倒になったとき、その損失は、取扱金融機関の負担になるので、東京都の財政負担が発生することはありません。(ただし、その割合は非公開ですが、貸倒が起きたときは、東京都から取扱金融機関に、一定の補填が行われるそうですが、貸倒リスクの大部分は、取扱金融機関が負うことに変わりはありません)

したがって、西村さんの懸念する、東京都の財政負担はありません。その次は、同制度で融資を受ける場合、事前に東京都から事業計画の認定を受けることが条件となっていることです。確かに、事業計画は机上で作られるものなので、事業計画があるからといって、融資を受ける会社やその経営者が信用できるということにはなりません。しかし、計画策定を支援するビジネスコンシェルジュ東京(東京都政策企画局が運営する、外国企業向けの支援窓口)が、計画策定の過程で、支援する会社の経営者の能力や資質を確認することになるので、計画が完成するまでに、その会社が信頼できる相手であることを確認できます。

ただし、従来の東京都の創業者向け制度融資は、事業活動の制限を受けていない在留資格を有している外国人や、その人が経営する会社も利用することができます。したがって、東京都が定めて新たな制度の必要性は、事業計画の策定や、融資申込の支援を除けば、あまり必要がないと、私は考えています。

最後に、私見を述べたいのですが、東京都が外国人の事業を支援をする必要があるのかという疑問を持つ方もいると思います。しかし、これまで私が接してきた外国人経営者の方の多くは、母国を離れて日本で事業を成功させようという強い意欲を持った方でした。失礼ながら、日本人よりアグレッシブであるという印象を持ちました。そういった面では、外国人であっても、事業を成功させる強い意欲を持った経営者が、地元でたくさん活躍して欲しいと自治体が考えることは、妥当であると、私は考えています。

2022/8/16 No.2071