[要旨]
経済評論家の鈴木貴博さんは、AmazonのiRobot社の買収について、Amazonがルンバの技術を応用して、一般家庭のDX化を進めることを狙うためだと分析しておられます。従来の事業多角化は販売シナジーなどを狙うものでしたが、この事例は、新しいサービスを提供するというこれまでにはない相乗効果を狙っているものと考えることができます。
[本文]
経済評論家の鈴木貴博さんが、AmazonのiRobot社の買収に関する記事を寄稿しておられました。iRobotは、家庭用ロボット掃除機のルンバを販売している会社ですが、鈴木さんは、AmazonがiRobotを買収した理由として、同社が一般家庭のDX化を進めることを狙っているからではないかと考えているそうです。
すなわち、「ルンバは、戦場での地雷探知ロボットの技術が転用されており、自律的に家の中を走り回りながら、家の地図を隅々まで自動作成する」機能を持っていることから、それをAmazonが欲しているのだろうということです。とはいえ、これまでM&Aによる事業の多角化で相乗効果を得ようとする例は、しばしば見られており、珍しいことではありません。例えば、ヤマダ電機は大塚家具を子会社化しましたが、このことにより、家電とともに家具を販売できるという販売シナジーが得られることは容易に理解できます。
ちなみに、ロシア系アメリカ人の経営学者のアンゾフは、事業の多角化の相乗効果について、販売シナジーのほか、生産シナジー、投資シナジー、マネジメントシナジーをあげています。しかし、AmazonのiRobot買収の効果は、アンゾフの分類する4つの相乗効果のいずれにもあてはまらないと、私は考えています。強いて言えば、Amazonがルンバの技術を応用にすることよって、Amazonの提供する顧客体験価値を高めることになるので、それは投資シナジーに該当するとも言えなくもないと思われます。
しかし、投資シナジーは、投資効率の観点からの相乗効果なので、私は投資シナジーとは別の相乗効果ではないかと思っています。この分類は、学問的な観点で行われるものなので、どれに該当するかを議論しても、実務面からはあまり意義はないかもしれませんが、私は、AmazonのiRobotの買収は、従来にはない観点からの事例であると思っています。そして、これからはDXの顧客体験価値を高めるためのM&Aが、より活発化していくと考えています。
2022/8/14 No.2069