[要旨]
活動基準原価計算(ABC)の導入のデメリットは、アクティビティの設定に労力を要すること、間接費の集計はシステムの導入が進んでいなければ難しいこと、正確な原価の算出によって自部門の評価が下がることを懸念する部門が消極的になること、ABCの結果だけで経営判断をすることは適切でないことが挙げられます。
[本文]
今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、活動基準原価計算(ABC)は、原価を正確に把握できることから、多品種少量生産をしている会社、間接費の比重の高い会社、コスト面で競争優位に立とうとしている会社に向いているといことを説明しました。
今回は、ABCのデメリットについて説明します。これは、ひとことで言えば、ABCを活用した事業管理は労力がかかるということです。これについて、西山教授は、4つの面をあげておられます。ひとつは、「ABCを導入する場合は、間接費を集計する単位として、製品などのアウトプットを生み出すためのひとまとまりの活動を意味するアクティビティを設定することになるが、このアクティビティの設定に、通常、かなりの手間がかかる」ことです。
2つめは、「アクティビティを設定したあと、アクティビティごとに間接費を集計し、選択したコストドライバーをもとに割り振り計算をしていくが、システムの導入があまり進んでいないと、それらの集計は難しくなる」ということです。3つめは、「ABCによる丁寧なコスト集計によって、(財務会計に基づく原価計算と比較して)コストが高く、採算が低いことが明確になる部門については、その部門への評価が下がることを危惧し、ABCの導入にも消極的になる可能性がある」ということです。
4つめは、「ABCによって、(製造工程が)標準的な製品のコストは低く、逆に、複雑で特殊な製品のコストは高く計算される可能性が高くなるが、長期的な視点で見れば、単純に、コストが低い標準的な製品の生産だけを拡大すればよいということにはならないので、ABCの結果だけで判断すればよいということにはならない」ということです。
ABCだけに限りませんが、会計面のデータは、会社の事業について、ひとつの側面から見るものです。したがって、会計面のデータの正確性を高めることは大切ですが、それによって得られた結果だけで判断をすればよいということにはならないということにも注意が必要であり、このことは、経営者、従業員の間でしっかりと認識しなければなりません。
2022/5/14 No.1977