鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

含み益と保守主義の原則

[要旨]

阪神甲子園球場の約9.6万平米の敷地は、時価で約380億円ほどありますが、かつて、阪神甲子園球場を所有している阪神電気鉄道貸借対照表には、800万円で計上されていました。これは、会社が取得した資産は、時価と取得価額のいずれか低い方で計上するという会計上のルールがあるからです。


[本文]

今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、「前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる」という、重要性の原則により、携帯電話の料金などは、簡便な処理が認められることがあるということを説明しました。今回も、西山教授が、直接、言及はしていませんが、貸借対照表に関連する事項として、含み益と保守主義の原則について説明します。

含み益で興味深い例に、阪神甲子園球場の敷地、約9.6万平米の価額は、かつて、それを所有している阪神電気鉄道貸借対照表では、800万円だったというものがあります。阪神甲子園球場は、大正時代に、阪神電気鉄道が敷地を購入し、建設しましたが、当時の敷地の購入価額は800万円だったようです。そして、それは、その後も変わらずに、同社の帳簿上に800万円として計上されていたようです。このような、取得した資産の時価が、取得価額を上回っても、取得価額を貸借対照表の価額とする資産の評価方法を低価法といいます。

実際、阪神電気鉄道は、2006年10月に、阪神阪急ホールディングスの完全子会社になり、その結果、阪神阪急ホールディングスの2021年3月の貸借対照表には、阪神甲子園球場の敷地は、約382億円で計上されています。そして、この低価法は、企業会計原則の、「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」という保守主義の原則に基づくものです。私は、この考え方が、100%正しいとは限らないと思いますが、会計のルールは慎重さを優先しており、これは概ね妥当といえるでしょう。

したがって、財務諸表を見る人は、含み益は貸借対照表には表われていないということに注意が必要になります。もちろん、阪神甲子園球場の例は極端なのかもしれませんが、かつては、本当は、時価と帳簿上の価額に380億円以上の差があるのに、それが貸借対照表に反映されていなかったというのも、ちょっとおかしな感じがしますね。ただ、繰り返しになりますが、会計のルールは、こういった性質があるので、財務諸表などを見る側は、それを考慮しておく必要があるわけです。

2022/4/19 No.1952