[要旨]
日本国政府の国債発行残高は、1,114兆円になっているが、一方で、金利は0%のままなのは、投資家たちが、日本国政府の貸借対照表には表れていないものの、国債を返済できる十分な資産があると考えているからと思われます。
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私はその分野の専門家ではないのですが、どういうわけか、「日本国政府はたくさん国債を発行して、破たんしないの?」ときかれることがよくあるので、銀行職員の経験から、この件について考えていることを述べたいと思います。
ところで、ことしの5月12日の、財務大臣の記者会見で、次のようなやりとりがありました。「記者:5月8日に、2019年度末の国の借金について発表されたが、それによれば、すでに1,114兆円と、過去最大になっている。これがさらに膨らんでいくことによって、投資家から見た日本の財政への信認が損なわれる懸念もあるが、大臣はどう考えるのか?
大臣:記憶があいまいだが、1994年に赤字公債を初めて発行したときの金額は、280兆円ほどで、金利は5%くらいだった。いまは、国債の発行額が4倍程度に増えているが、金利は、ほぼ0%で、これは、経済学の理論では説明できず、日本銀行も、これを説明できないだろう。(報道機関や財務官僚は)ずっと、『国債発行額が増えれば、金利が上がる』と、狼少年のようなことを言い続けているが、そうはなっていないので、金利が低いうちに経済対策、財政政策を考えなければいけない」
すなわち、国債発行額が増えれば金利も上昇するということは、経済学の常識なのですが、そうなっていないことは、確かに不思議なことです。ちなみに、2018年度末の日本国の連結貸借対照表(一般会計・特別会計・独立行政法人)では、資産は1,013兆円、負債は1,517兆円であり、505兆円の債務超過の状態です。
もし、このような財政状態の会社があるとすれば、銀行から融資を受けることは不可能か、もし、融資を受けられるとしても、とても高い金利が条件になるでしょう。そして、国債の金利が上昇すると考える人たちは、このような考え方をしているからなのでしょう。でも、前述のとおり、国債の金利は0%のままであり、これはどう説明すればよいのでしょうか?ここからは、あくまで私見ですが、多くの投資家は、日本の国債は必ず償還されると考えているのだと思います。
では、なぜ、国債が必ず償還されると投資家が考えているのかということですが、これも、具体的なものについては説明できなのですが、日本国政府は、貸借対照表に載っていない資産を持っていると考えられているということだと思います。その、貸借対照表に載っていない資産とは何かというと、国債を返済できる能力であると、私は考えています。
では、その国債を返済できる能力とはどういうものかというと、日本の国民がたくさんの資産を持っているので、それらを税金として徴収すれば国債を返済できるかもしれないし、または、日本の会社には業績がよい会社がたくさんあるので、その会社の支払う法人税で返済が可能と考えられているということだと思います。
ここで、「返済できる能力は資産なのか」という疑問を持つ方もいると思います。会計的な観点からは、そのような考えをすることがあります。例えば、「のれん代」はそのような考え方で、資産に計上するものです。また、逆に、物理的な資産が貸借対照表にも計上されていても、生産活動に使われていない遊休資産があるときは、そのような会社に対して、もし、銀行が融資審査をするときは、その資産はないものとして資産から除去し、同時にその資産の価額(または、帳簿上の価額と処分見込額との差額)を損失として計上した状態を、その会社の実態として認識します。
話をもどして、前述の説明を端的に述べれば、日本の国債は、1,114兆円が発行されているものの、投資家たちは、それらを返済できるだけの十分な資産を日本国政府が持っていると考えているので、金利は高くならないと、私は考えています。