鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

事業再構築補助金の根抵当権問題(7)

[要旨]

現状では、事業再構築補助金事務局は、補助金適正化法を厳格に適用し、補助金で建てた建物への根抵当権の設定を認めないようです。そのため、事業再構築補助金で建物を建てられる事例は極めて限られ、事業再構築補助金の意義が薄れてしまいます。


[本文]

前回まで、事業再構築補助金根抵当権に関する問題について述べてきました。では、補助金を申請しようとする側は、根抵当権への制約に対し、どのようい対処すればよいかというと、あまり対処法はないと、私は考えています。10月に公表された公募要領から読み取れる内容では、実質的には、敷地に根抵当権が設定されていることを認めないものとなっています。

そこで、補助金を使って建物を建てようとする場合は、担保のついていない、自社が所有する土地に建てるか、または、自社が所有している土地の不動産担保を解除してもうしかなさそうです。しかし、いずれかの条件を満たすことができる会社は多くないと思われますので、そうでない会社ができることとすれば、新たに土地を購入するか、土地を賃借し、そこに建物を建てるしかないようです。しかし、このような対応方法についても、補助金事務局が認めるものであるかどうかは、不明確なところがあります。

例えば、土地を購入し、その際、銀行から融資を受け、購入物件に対しては、銀行から普通抵当権を設定されたとします。その後、その土地に、補助事業の事業計画に基づいて建物を建て、完成した後に、その建物を、敷地の普通抵当権に追加担保として追加設定することが一般的な担保実務ですが、そのことを補助金事務局が設定を認める普通抵当権に該当するのかは、わかりません。

また、借地、すなわち、第三者が所有する土地に補助金を使って建物を建てる場合で、その土地に根抵当権が設定されているときであっても、「根抵当権設定契約において建設した施設等の財産に対する追加担保差入条項が定められていないことについての確認書」を求められるのかどうかも不明確です。敷地の所有者が第三者の場合、賃借人が「確認書」を提出することは、実質的にはほぼ不可能です。

結論としては、補助金適正化法を厳格に適用すると、事業再構築補助金を使って建物を建てられる事例は、極めて限られてきます。ちなみに、事業再構築補助金事務局のホームページで紹介されている事例の中に、補助金で建物を建てる事業計画がありましたが、少なくとも、その中の1社は、私が調査したところ、建物の建設予定地(自社所有)には根抵当権が設定されており、実質的にはその根抵当権が解除されない限り、補助事業は遂行されないことになります。

もちろん、事業再構築補助金の補助対象は「建物費」だけではありませんが、最高1億円の補助金であれば、「建物費」が補助の中心になるでしょう。これについては、私の想像ですが、以前も述べた通り、中小企業庁は事業再構築補助金を構想する段階で、根抵当権との関わりを深く検討しないまま、公募を開始してしまったと考えられます。

しかし、補助金適正化法を厳格に適用すれば、事業再構築補助金の意義はなくなってしまいます。そこで、事業再構築補助金で建てた建物については根抵当権の設定を限定的に認めるという英断を、中小企業庁は行うべきであると私は考えます。仮に、その英断が批判を受けることがある可能性もありますが、現状のような矛盾を放置することへの批判の方が、その何杯も大きいはずです。

2021/11/5 No.1787

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