鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

期限の利益喪失をどうとらえるか

私は、かつて、銀行に勤めていたことがあ

るため、融資に関するご相談をよく受けて

います。


ただ、銀行に勤務した経験がない方でも、

融資申請のご支援をされている方は多くい

らっしゃいます。


そして、銀行勤務の経験のない方とお話す

ると、考え方の違いがあるということに気

づくことがあります。


そのひとつは、期限の利益の喪失に関する

考え方です。


(期限の利益については、こちらを参照し

てください。→ https://goo.gl/GTqQ5M


銀行職員は、融資先の期限の利益を喪失さ

せるということは、将来、その会社は融資

を受けられなくしてしまうということにな

り、ある意味、事業家としての生命を断つ

ことに等しいという考え方をします。


理論的には、例えば、銀行取引停止処分は

2年後には解除され、再度、銀行と当座勘

定取引を持つことができます。


ただ、日本の場合、かつて不渡りを出した

会社や、倒産した会社は、銀行職員だけで

なく、取引先の記憶に長く残り、通常の取

引相手よりも用心されてしまいます。


すべてがそうなるとは言えませんが、かつ

て、期限の利益を喪失した会社(および、

その会社の役員だった人が新たに起こした

会社)は、相当の年数が経っても、現実的

には銀行と再び融資取引を始めることはた

いへん難しい状況にあります。


そのため、いったん倒産した会社の役員が

再び事業を行おうとするとき、知人を名目

上の社長にして、会社を設立することがし

ばしばありますが、銀行は、融資申込の

あった会社の関係者に、かつて倒産した会

社の関係者がいないかということまで調べ

ます。


もし、関係者がいた場合は、主導的立場に

ないかということまで確認しています。


このように、銀行側は、そこまで用心して

いるので、逆に、期限の利益の喪失(≒倒

産)をさせるような判断を迫られるときは

慎重になるのです。


私も、そのような経験をしているので、銀

行を離れてからも、お手伝いする会社には

期限の利益の喪失を提案するということに

は、かなり慎重になっています。


しかし、銀行勤務経験のない方は、ある程

度は慎重にはなっていると思いますが、私

ほどの慎重さは持たずに、ご支援している

会社に、期限の利益の喪失を受けることを

提案しているように思います。


確かに、期限の利益を喪失したからといっ

て、まったく再建の道がなくなるわけでは

ありません。


むしろ、債権放棄を銀行に要請することの

方が得策ということもあります。


これはケースバイケースなので、一律に論

じることはできないのですが、銀行側とし

ては、期限の利益の喪失、債権放棄(会社

側からみれば債務免除)は、ぎりぎりまで

やりたくないという心理が働きます。


しかし、ここまでは一般論であって、銀行

も、債務超過の会社ではあるものの、事業

の再生の見込みがあれば、融資の一部の免

除を行う方が得策と判断し、銀行側から提

案することもあります。


ここで、よく間違えられやすいことがある

のですが、銀行から債務免除を受けた会社

の社長は、退任することが一般的です。


会社が債務免除を受けたあとも、それまで

の社長が引き続いて社長のポジションに就

く例もありますが、その場合であっても、

従来の株主はすべて株主としての地位を失

い、新たな株主は再生ファンドや銀行など

で占められるので、いわゆるオーナー社長

ではなくなります。


すなわち、再建計画がうまくいかなければ

社長はすぐに解任されてしまうという立場

にあるということです。


ときどき、「自社も、銀行から債務免除を

受けたい」という話をする経営者の方に会

うことがありますが、その場合、社長はそ

の地位を追われるか、社長にとどまっても

権限が大幅に縮小されてしまうということ

までは理解していないようです。


話しを戻して、今回の記事の結論は、事業

再生を考えている経営者の方で、コンサル

タントなどに相談をするときは、銀行出身

者と、銀行出身者以外のコンサルタント

両方に意見をきくことがよいということで

す。


ただ、私は安易に期限の利益の喪失を受け

ることは、ぎりぎりまで避けることが、本

筋であると考えています。

 

 

 

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