鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リーダーシップ・キャパシティ

[要旨]

伊賀さんは、日本では、リーダーシップの総量である、リーダーシップ・キャパシティが不足していることが、日本の会社の競争力が強くならない原因であると指摘しています。これは、日本では、他者依存的な人が多く、カリスマリーダーの出現を期待し、自らはリーダーシップを発揮しないことが理由です。


[本文]

前回に引き続き、今回も、伊賀泰代さんのご著書、「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。伊賀さんは、組織のリーダーだけでなく、構成員もリーダーシップをもつことによって、組織の成果も高くなるとご説明しておられますが、これに関し、リーダーシップ・キャパシティという考え方についてもご説明されておられます。

「リーダーシップに関して明確にしておきたいことは、日本に不足しているのは、『リーダーシップ・キャパシティ』だということです。これは、『日本全体でのリーダーシップの総量』を意味します。つまり、日本の問題は、カリスマリーダーの不在ではなく、リーダーシップを発揮できる人数の少なさにあります。(中略)日本経済は、長い停滞と衰退のトレンドから抜け出せず、苦悩しています。

そんな中、私たちは国のリーダーである総理大臣を次々と取り替えています。(中略)その根本的な原因は、国民が成果を出せない新首相を短期間で見限ってしまう点にあります。(中略)私は、その理由を、国民が『トップ1人を変えれば、短期間で一気に何もかもがよくなるはず』という幻想をもっているからだと考えています。(中略)

1人の偉大なるリーダーを待ち望む気持ちは、誰かが、このたいへんな状況を一気に変えてくれるはずという、他者依存の発想に基づいています。(中略)日本人にとってリーダーとは、スーパースターであり、『神のような力をもった誰か』ですが、こういう人を待ち望む気持ちは、裏を返せば思考停止と同じです。(中略)必要なのは、組織のあらゆる場所で、目の前の変革を地道に主導するリーダーシップの総量が、一定以上まで増えることです」(181ページ)

この伊賀さんのご指摘も、多くの方は賛同されると思います。ただ、かつて、日本の高度経済成長を支えていた、「日本経営の三種の神器」である、企業別組合、終身雇用、年功序列のしくみは、伊賀さんの指摘するような、組織の各構成員にリーダーシップをもたせることを必要としていなかったことも事実だと、私は考えています。

しかし、当然のことながら、時代は変わり、いまは、いまの経営環境に沿った人材が求められているわけですから、単に、リーダーだけでなく、組織の構成員にもリーダーシップをもってもらわなければならないことは言うまでもありません。そうなると、経営者の方が会社の競争力を高めようとしたり、組織の力を強くしたりするにはどうすればよいのかというと、自ずと、組織の構成員のリーダーシップを涵養することであるという結論になるでしょう。

2022/6/23 No.2017

 

自分の仕事のリーダーは自分

[要旨]

マッキンゼーでは、自分が自分の仕事のリーダーとなって仕事を進めます。したがって、組織図も、自分が中心にいる放射状の組織図になっています。このような体制をとることで、組織の構成員の多くがリーダーシップを発揮し、大きな成果につながります。


[本文]

前回に引き続き、今回も、伊賀泰代さんのご著書、「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。今回は、公式なリーダーではなく、組織の構成員の立場にいる場合は、どのようにリーダーシップを発揮すればよいのかということに関する、伊賀さんの説明をご紹介します。「(伊賀さんが、マッキンゼーに)入社してすぐの頃、先輩に教えられたことは、自分が中心に位置する放射線状の組織図でした。

通常の組織図は、上司が上、部下が下に置かれたピラミッド型の組織図ですが、この組織図は、マッキンゼーのチームには当てはまりません。マネジャーはパートナーの指示に沿って仕事をする人ではないし、各コンサルタントも、マネジャーから割り振られた仕事を担当する部下ではないからです。代わりに、常に意識しろと教えられたことは(中略)、『自分の仕事に関しては、自分がリーダーであり、パートナーやマネジャーを含めた関係者をどう使って成果を最大化するのか、それを考えることがあなたの仕事だ』ということです。

真ん中に位置する自分を舞台監督だとすれば、パートナーは主演男優、マネジャーは主演女優とも言えます。自分よりも彼らのほうが給与も高いし、知名度や立場も上かもしれません。それでも、『舞台をつくり上げ、成功させる』ことについて主導し、責任をとるべきは監督、すなわち自分である、ということです。だから、『上司をどう使うか考えることも、あなたの仕事だ』となるわけです」(147ページ)

日本では、リーダーと言えば、公式組織のリーダー(社長、部長、課長など)と考える人が多いと思いますが、マッキンゼーでは、プロジェクト(自分の仕事)ごとに、リーダーがいると考えているようです。確かに、プロジェクトごとにリーダーがいれば、リーダーシップを発揮する立場の人が多くなるので、そのような会社では、業績も高くなることは容易に理解できます。しかし、たくさんの人にリーダーシップを発揮してもらうようにするには、単に、リーダーのポジションを与えればよいということにはならないでしょう。

当然に、権限も委譲しなければ、「名ばかりリーダー」になってしまいます。さらに、より多くの構成員が、リーダーとして活動できるよう、育成もしなければならないでしょう。いま、組織の活性化をどのように行えばよいのかということについて悩んでいる経営者の方は多いと思いますが、それを実現するための対処法は、基本的には、組織の仕組みと人材の育成であると、私は伊賀さんの本を読んで感じました。

2022/6/22 No.2016

 

誤った決断は決断しないことに優る

[要旨]

ビジネスの場では、決断すべきときに、失敗したときの責任を負いたくないという理由で、決断を先延ばししたり、決断を避けたりすることが、しばしば見られます。しかし、決断しないことは、何の学びも得られないことから、誤まることになったとしても、決断することは避けるべきではありません。


[本文]

前回に引き続き、今回も、伊賀泰代さんのご著書、「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。前回、伊賀さんは、組織の成果の達成を強く意識することがとリーダーシップに求められていると説明していることをご紹介しましたが、さらに、伊賀さんは、リーダーシップには、決断することが大切であるとも説明しています。

「ある、アメリカの会社の経営者が、会議の席上で、『A bad decision is better than no decision』と発言していたのを聞いた時は、その通りだと感じるとともに、それを経営トップが会議で公言することに驚きも覚えました。これはまさに、決めることがリーダーの責務であると理解している人の言葉です。『ベストな結論が見つかるまで検討を続けるべきだ』などと言っていては、お話になりません。

なぜ、ベストな決断でなくても、決めることが重要なのか、そのひとつの理由は、何かを決断すると、問題を浮かび上がらせることができるからです。(中略)リーダーが決断するときは、『これで万事がうまくいく』という結論が出た段階ではありません。問題は山積みですが、今が決断して前に進むべきタイミングであると考えて決断するのです。したがって、決断の後に問題が噴出することは想定内のことです」(126ページ)日本では、リーダーのポジションにあるにもかかわらず、決断できない人がいることは珍しくありません。

その理由は、決断した結果、それが失敗だったときの責任を取りたくないということもあると思いますが、それだけでなく、リーダーの決断は正しくなければならないという考えを持つ方が多いからだと思います。仮に、リーダーは正しい決断しかしてはならないのであれば、正しい決断ができるまで待つことをしたり、決断そのものを避けることの方が無難であることになるのは当然でしょう。でも、伊賀さんが米国の経営者の方から聞いたとおり、「間違った決断は、決断しないことに優る」ということが、ビジネスパーソンとしては正しい考え方でしょう。

確かに、誤った決断をした結果、失敗したとしても、決断しなかった結果、失敗したとしても、どちらも同じ失敗に見えます。でも、誤った決断であったとしても、決断が行われた場合、その後の組織の活動は能動的に行なわれることになり、決断をしなかったときよりも多くの学びがあります。そして、その後の活動においても、決断をしなかったときよりも、失敗の経験が活きることになります。このことは、広く理解されていることとは思いますが、決断できない経営者の方も、依然、少なくないと思います。

2022/6/21 No.2015

 

救命ボートの漕ぎ手を選ぶ基準

[要旨]

日本では、組織の構成員の和を乱さないようにすることが優先されることがしばしば見らせます。しかし、その度合いが大き過ぎると、組織の目的がなかなか達成できなくなり、そのことは、組織自体の存在の意味をなくしてしまいます。したがって、組織の成果を強く意識することが、組織の構成員、特に、リーダーに求められます。


[本文]

前回に引き続き、今回も、伊賀泰代さんのご著書、「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。前回、伊賀さんは、「本来のリーダーとは、『チームの使命を達成するために必要なことをやる人』である」と説明していることをご紹介しました。これについて、伊賀さんは、別のところでさらに深く説明しています。

「(乗っていた船が沈没しようとしているとき)大海で自分が乗る救命ボートを選ぶ際は、命さえ助けてくれるなら、漕ぎ手の性格が強引で、人当たりが悪くても、無口で自分とは合わない性格であっても、私たちは、そんなことは気にしないはずです。そうではなく、『救助が得られるまで、乗客を無事に生かしてくれる、導いてくれる』という成果が達成できる人かどうか、という点のみを基準に漕ぎ手を選ぶでしょう。

海の上を漂流して助けを待つ間には、数多くの状況判断や、乗員の統率が必要になります。時には厳しい判断やリスクをとった決断もできる、真のリーダーを選ばないと、命が助かりません」この伊賀さんのご指摘は、よく納得できるものなのですが、日本では、組織の和を乱さない、波風を立てないということが優先されがちです。ところで、組織論の研究の第一人者のバーナードは、組織の3要素として、共通目的、協働意欲、コミュニケーションを挙げていることは、広く知られています。

この、3要素の中に共通目的が入っている意味は、組織活動で成果が出なければ、組織が維持できなくなるということです。前述の救命ボートの例で言えば、仮に、何らかの理由で、ボートに乗っている人たちの命が助かるという目的が達成されないことが分かったとすれば、ボートに乗っている人たちは、ボートに乗っている他の人たちと協力して活動しようとしなくなるということは、すぐに理解できると思います。

ですから、組織的な活動が維持されるためにも、組織の3要素のひとつである、共通目的が達成されるようにすることが、リーダーに求められているということになります。しかし、救命ボートに乗っている人のだれもが、あまりリーダーシップを意識せず、他の人に嫌われたくないということを優先し、命が助かるための活動を後まわしにすれば、組織としての活動も行われなくなり、命が助からなくなる確率も高まることになるでしょう。

とはいえ、リーダーが、組織の構成員の気持ちを無視し、どんなに嫌われるようなことをしてもいいのかというと、やは共通目的を達成するために、組織の構成員に対して励ますことをすることの方が、より大きな成果につながるでしょう。でも、リーダーが、単に、組織の和を優先するだけなのようであれば、なかなか成果が得られないことになってしまいます。伊賀さんは、日本の会社では、成果を得ようとすることがリーダーシップであるということが、あまり理解されていないと指摘しておられますが、私も同様のことを感じることがあります。

2022/6/20 No.2014

 

リーダーシップは全員に必要

[要旨]

外資系企業では、従業員全員にリーダーシップを求めますが、それは、全員がリーダーシップをもつ組織は、一部の人だけがリーダーシップをもつ組織より、圧倒的に高い成果を出しやすいからです。これは、外資系企業では、リーダーにはチームの使命を達成するために必要なことをやる人と考えられているためです。


[本文]

マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンOGで、経営コンサルタントの伊賀泰代さんのご著書、「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」を拝読しました。この本のタイトルは「採用基準」ですが、マッキンゼーでは、グローバルに通用するリーダーシップを持っている人材を基準に採用活動をしていることから、この本の内容は、そのグローバルに通用するリーダーシップについて書かれています。そして、伊賀さんによれば、そのようなリーダーシップは、リーダーだけでなく、組織の構成員の全員に必要だと説明しておられます。「日本人の多くは、『リーダーは、ひとつの組織に1人か2人いればいいもの」と考えています。

その他の人はあまり強い主張をせず、リーダーの指示に従って粛々と動く方が、組織全体としていい結果につながると考えているのです。(中略)このため、『組織においては、ごく一部の人がリーダーシップをもっていればいいのに、なぜ、外資系企業や欧米の大学では、採用面接や大学入試において、全員にリーダーシップを求めるのか』と不思議がられるのです。(中略)この質問に対する私の答えは極めてシンプルで、全員がリーダーシップをもつ組織は、一部の人だけがリーダーシップをもつ組織より、圧倒的に高い成果を出しやすいからです。(中略)本来のリーダーとは、『チームの使命を達成するために必要なことをやる人』です。

(仮に)プロジェクトリーダーである自分の意見より、ずっと若いメンバーの意見が正しいと考えれば、すぐに自分の意見を捨て、その若者の意見をチームの結論として採用するのがリーダーです。さらに、『そんな若造の意見を採用するなんて!』と不満を持つメンバーを納得させ、チームをまとめていくのがリーダーです。チーム内にリーダーが複数いることは決してマイナスではなく、むしろ、全メンバーがリーダーとしての自覚をもって活動するチームは、『1人がリーダー、その他はみんなフォロアー』というチームより、明らかに高い成果を出すことができます」(69ページ)

いわゆる「リーダーシップ」のある人が、仮に、組織の構成員全員であれば、みな、自立的、かつ、能動的に行動するので、そういう観点では、全員がリーダーシップをもっていることは望ましいということは、すぐに理解できます。そして、もうひとつ大切な観点は、リーダーは、「チームの使命を達成するために必要なことをやる人」ということだと思います。日本の会社の場合、組織の中で複数の意見が出た場合、足して2で割るような意思決定(いわゆる、ソーシャルコヒージョン)をしたり、上席者の意見に従ったりするということが、しばしば、行われます。

しかし、これは、組織の中の和を乱さないことが目的になっていて、必ずしも「チームの使命を達成すること」が目的になっているとは限りません。そして、私は、これまで、リーダーとは、組織を率いる役割と考えていたのですが、伊賀さんの本を読んで、「チームの使命を達成すること」もリーダーの役割として考えなければならないと感じました。組織を率いる役割だけに焦点を当てていれば、リーダーは1人でもよいと考えることができますが、「チームの使命を達成すること」もリーダーの役割と考えれば、全員がリーダーシップをもっていることが望ましいということが、よく理解できます。

2022/6/19 No.2013

 

日本リスキリングコンソーシアムが発足

[要旨]

デジタルデバイドを緩和するためのトレーニングプログラムを提供する機関である、日本リスキリングコンソーシアムが発足しました。いま、日本では、情報技術リテラシーを持つ人が少なく、そのことが会社の競争力が高まらない要因になっていることから、この機関を多くの方に活用されることを期待しています。


[本文]

6月16日に、日本リスキリングコンソーシアムが発足したと発表がありました。この「リスキリング」とは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること、または、させること」です。そして、同コンソーシアムでは、「日本の社会において、労働人口の減少や、地方と都市部、大企業と中小企業のデジタル格差、デジタル人材の不足が大きな課題」になっている中にあって、「AI、デジタルマーケティングから働き方や学校教育まで、さまざまなテーマの200以上のトレーニングプログラムを提供」するそうです。

ひとことで言えば、デジタルデバイドを緩和するためのトレーニングプログラムを提供する機関のようです。私は、このような機関ができたことは、とても評価したいと思う一方で、もっと、早くできて欲しかったとも考えています。というのは、いま、日本の中小企業の業績が、なかなか向上しない要因の主なもののひとつは、情報技術リテラシーを持っている経営者や従業員が少ないからだと考えているからです。そして、かつては、情報技術は、既存の事業の省力化、効率化などを目的として利用されていましたが、現在は、それよりも、情報技術を自社の事業をどのように活用できるかが重要になってきています。

例えば、埼玉県春日部市に本社のある三洲製菓は、トレーサビリティのシステム化により、2005年の売上高を、前年比12%増の27億円に伸ばしています。トレーサビリティとは、もとの意味は追跡可能性という意味ですが、現在は、食品の加工・製造・流通などの過程を明確にすることという意味で使われています。同社では、以前から手作業でトレーサビリティを行ってきましたが、情報技術の導入によって、材料、仕掛品、製品にラベルを貼って追跡を容易にするなどの合理化を行うようにしました。

これだけであれば単なる合理化に過ぎませんが、製造工程のデータを社員全員で共有できるようになったことから、クレーム対が、従来の5日間から1日間に短縮し、納品先からの信頼性を向上させただけでなく、社員の安全への取り組みの意識を向上させることにつながっています。確かに、これらの効果は手作業を機械化したことで得られるものですが、信頼性向上を目指すという戦略のもとで情報化を行っている点で、単なる合理化とは異なるものとなっています。

この事例のように、現在は、単に、パソコンなどの情報機器の操作に詳しい人がいるというだけでは、会社の競争力を高めることはできません。情報技術を会社の事業に戦略的に活用できる能力が求められており、繰り返しになりますが、このような能力を持つ人材の不足が、いまの日本の業績が向上しなくなっていることのボトルネックになっていると、私は考えています。したがって、これから多くのビジネスパーソンに、日本リスキリングコンソーシアムのトレーニングプログラムを活用していただき、ボトルネックが解消していくことを期待しています。

2022/6/18 No.2012

 

法隆寺のクラウドファンディング

[要旨]

コロナ禍の影響で収入が減った法隆寺は、境内の整備費用をクラウドファンディングで募ったところ、2千万円の目標を半日で達成しました。このような、法隆寺を支援しようとする人たちがいることは、法隆寺にとって、貸借対照表には表れない「無形の資産」であり、仮に銀行が法隆寺の融資審査をするとしたときに評価されるポテンシャルと言えます。


[本文]

新型ウイルス感染防止対策の影響で、参拝者が減少したことから、境内の整備費用の捻出のために、6月15日に開始した、法隆寺のクラウドファンディングが、開始日の半日で、目標額の2千万円を達成したそうです。支援募集から3日目の本日は、支援額は、約6千万円になっており、法隆寺を支援したいと考える方の多さにはたいへん驚かされます。

そして、このような、支援したいと考える人の多さは、法隆寺にとって「無形の資産」と言えるでしょう。仮に、銀行が法隆寺から融資を申し込まれたとしたら、貸借対照表に現れていない、この「無形の資産」を、「ポテンシャルがある」として、きっと評価することでしょう。実際には行われないと思いますが、仮に、法隆寺が新しい建物を建てるので、支援者からの寄付が集まるまで、建築代金の融資をして欲しいと、銀行が依頼されたとしたら、前述の「無形の資産」を評価し、すぐに融資承認を出すのではないでしょうか?

このような「無形の資産」は、一般の会社でもみられる例です。例えば、外食店のドムドムハンバーガーでは、コロナ禍で迎えた2021年3月期決算は、店頭販売だけの売上高は前年比98%台後半だったそうです。でも、15万枚(2021年4月時点)も販売された、ドムドムハンバーガーロゴマークの入ったメッシュマスクなど、グッズのEC販売が好調で、全体の売上高は前年比109%に伸びたそうです。

すなわち、同社の売上の約10%はECサイトだったということですが、これも、法隆寺と同様、ドムドムハンバーガーのファンの多さの現れでしょう。そして、このような「無形の資産」は、ピンチのときこそ、自社の事業を助けてくれます。会社の経営環境が追い風のときは、あまり意識できないことですが、現在のように逆風が吹いている時こそ、自社を応援してくれる顧客づくりを意識することが大切ということを、法隆寺クラウドファンディングの成功例を見て感じました。

2022/6/17 No.2011