鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

銀行は積極的に助言するとは限らない


[要旨]

金融機関は融資相手の会社の財務状況に異常があったとしても、必ずしも、それを告げるとは限りません。そのままであれば、自社の事業が行き詰るリスクは高まることから、定期的に、金融機関が自社をどのように見ているのかを尋ね、助言を求めることで、自社の事業のリスクを減らすことになるでしょう。


[本文]

日経ビジネスオンラインに、ある製造業の倒産の経緯について書かれていました。事例のX社は、海外に販路を拡大して行ったものの、海外の販売会社の経営者が売上金をX社に送らず、別の商品の仕入れに流用したことから、同社の売掛金などが回収不能となったことが、倒産の原因となったということです。このような、売上の急拡大にともなう倒産はよくある事例なのですが、その記事の筆者は、金融機関がX社の財務状況に疑問を持たなかったのかについて、疑問を感じたようです。

結論としては、メインバンクの信用金庫は、X社の財務状況の異常に気づいていたようですが、社長の人柄を信用して、あえて口出しをしてこなかったということのようです。これに対して、筆者は、もし、X社のメインバンクがメガバンクであれば、X社の財務状況の異常に気づいた時点で、その理由をきいて、改善を求めたであろう。そうであれば、倒産は避けられたかもしれないと考えたようです。このように書くと、信用金庫の取引先への寛容さが倒産の一因になっているというように感じられるかもしれません。

しかし、それは結果論であって、X社のメインバンクの信用金庫の融資相手の会社への接し方が、必ずしも間違っているとは、私は考えていません。やはり、最終的には、X社自身の問題だと思います。中小企業の場合、事業が継続できてさえいれば、経営者はそれで問題ないと考えてしまうことが多いようです。ただ、金融機関は、他社の倒産事例を多く知っているので、融資相手の会社に危険な兆候が見られれば、倒産に備えて、何らかの対応を行うでしょう。

その中に、融資相手の会社に事情を聴取することもありますが、あえて静観することもあります。経営者によっては、金融機関からの忠告などを煙たがる方もいるからです。X社の事例では、メインバンクの信用金庫が、なぜ、静観していたのか、具体的な理由は分かりませんが、もし、経営者自らが信用金庫に定期的に出向いて、自社の業況をどうみているのか意見を求めていれば、信用金庫はそれに応えて助言などを与えていたのではないかと思います。

そうであれば、倒産は避けられた可能性も高まります。確かに、事業に確実なものはないので、リスクは完全に避けることはできません。でも、中小企業の多くは、良い意味でも悪い意味でもワンマン経営であり、第三者の意見をきく機会は少ないようです。そこで、リスクを減らすという観点から、定期的にメインバンクの助言を求めることは有用であると、私は考えています。

2022/6/16 No.2010

 

戦闘機無人化でパイロットは無価値に?

[要旨]

現在は、優れた会計ソフトによって、多くの経理処理を省力化できるようになりました。しかし、会計に関する情報に基づく経営判断は、経営者自身が行わなければならないことに変わりはありません。したがって、会計処理を省力化できたとしても、適切な経営判断ができるよう、経営者の方は会計に関する知識を持つ必要があります。


[本文]

大ヒット映画の、トップガンマーヴェリックに、主人公のミッチェル大佐の上司が、ミッチェル大佐に対して、「将来、戦闘機が無人化し、パイロットの価値がなくなるだろう」というセリフを話すシーンがあるそうです。これに対して、ミッチェル大佐は、「多分そうなるだろう、しかし、それは今ではない」と返すそうです。

ちなみに、軍事専門家の方によれば、仮に人工知能で戦闘機を操縦できるようになったとしても、人工知能アルゴリズムをつくるのは人間であり、その前提となる知識は、パイロットからしか得られないので、完全にパイロットが要らなくなるわけではないということだそうです。話を戻して、私は、前述のセリフを見た時、これは、会計にもあてはまるということを思い出しました。

私が学生時代に会計学を専攻していたとき、担当教官が、「いまは、会計ソフトが会計処理をしてくるが、だからといって、経営者が簿記の知識を持たなくてよいということにはならない。作業そのものは機械がやってくれても、会計の論理を経営者が理解していなければ、正しい経営判断ができない」と説明しておられました。現在は、さまざまなことを人工知能やRPAが代わって行ってくれるようになりましたが、「経営判断」までは代わってくれません。

これは当たり前すぎることなのですが、いまだに、「会計処理は経理ソフトや会計事務所がやってくれるから、経営者は事業に専念していればよい」と考えている方も少なくないと、私は感じています。繰り返しになりますが、作業は代行させることはできても、「経営判断」までは代行させることはできません。もし、それができたら、会社に「社長」は不要になります。したがって、作業はしなくても判断ができるよう、会計に関する知識は経営者には欠かすことができないということを、改めて感じました。

2022/6/15 No.2009

 

成功者にならなければ成功はありえない

[要旨]

成功するためのノウハウである程度は事業を成功に近づけることはできますが、それは、他社からの「ノウハウ」に頼ったものであり、経営者が自らの実力で事業を成功させたとは言えません。本当の成功は、経営者が経営者としての能力を高めた結果、得られた成功でなければならなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、犬飼ターボさんの小説、「CHANCE」から、同書を読んで、私が気づいた点についてご紹介したいと思います。主人公で青年起業家の泉卓也は、メンターの弓池から助言をもらいながら事業を順調に拡大していきますが、それが軌道に乗り始めたころで弓池は病死してしまいます。そして、弓池の葬儀などが済んでから、泉は、弓池からの教えを回想します。

「改めて考えれば、弓池ほどのビジネスの経験者でセンスを持った人間なら、卓也の失敗を、全部ではないにしろ、ほとんど予見できていたに違いない。何をすればいいか、何をしてはいけないかを、すべて前もって指示し、必要な手を打ち、成功の確率を限りなく高めることもできたであろうが、弓池はそうしなかった。(そして、卓也は、弓池が)最初に教えてくれた2つのことを思い出した。

(1つは)ゴールは人生の成功者になるということと、そして、(もう1つは)すべての選択肢の中から成功者にふさわしいと思うものを自由に選び、その結果を経験することが大切だと(いうことだ)もしも、その結果が間違ったものだと気がついたら、その選択を意識的に変えていくという、ゴールにたどり着く方法を、弓池は教えてくれたのだった。(中略)成功者にならなければ、成功はありえない、成功するということは成功者であるということなのだ」

私は、作者の犬飼さんが、この部分で読者に伝えようとしていたことは、事業を成功させるということは、経営者が、外部の専門家などから、成功のノウハウを教わり、それに従って事業を遂行することではありません。外部の専門家から助言を得ることはしたとしても、自分自身で試行錯誤を繰り返し、経営者としての能力を高めながら、その結果として事業を成功させるということだということです。

当然のことですが、経営者が他人の指示にしたがうだけであれば、操り人形でしかないわけで、自ら事業をマネジメントして成功させる能力を持つことができなければ、経営者として成功したとはいえません。これは、よく言われている、「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」ということだと思うのですが、経営者の方の中には、早く「成功」したいと考え、「ノウハウ」や「裏技」などだけを求めてしまっている人は、少なくないと思います。

2022/6/14 No.2008

 

商品にこだわりがあるとうまくいかない

[要旨]

マクドナルドは、ハンバーガーを販売することで成功したわけではなく、アルバイトでも同じ味のハンバーガーを作ることができる仕組みを作ったことから成功しています。したがって、商品だけにこだわりすぎて、その商品を提供する仕組み作りが疎かになると、競争力は高いものとはなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、犬飼ターボさんの小説、「CHANCE」から、私が気づいた点についてご紹介したいと思います。主人公で青年起業家の泉卓也は、メンターの弓池から、新しく始める事業として、整体院の提案を受けますが、泉は整体師でもなく、また、これまで興味を持ったこともなかったので、自分がそのような事業を行なっても成功できるのかと疑問を持ちました、これに対し、弓池は、次のように説明します。

「ではマクドナルドはどうだろう。とても優れたビジネスシステムだね。世界中どこでも同じ味のハンバーガーを食べることができる。それを作っているのは長年修業した一流のシェフじゃなくて短期間の研修を受けたアルバイトだ。マクドナルドはそのシステムのおかげで成功を収めている。それでは、あのビジネスシステムを作った人はハンバーガーが好きだと思うかい。そう、好きかもしれないし、好きじゃないかもしれないよね。

つまり、ビジネスの成功とその商品やサービスに興味があるかどうかはあまり関係がないんじゃないかな。最低『嫌い』でなければいいと思うよ。嫌いなものを扱うのは苦痛だからね。むしろ、商品やサービスにこだわりがある人は、こだわりすぎて商品やサービスしか見えなくなってしまう。そうすると経営はうまくいかない。商品が好きだということ、それを売るということは、本当はまったく別のものだからね」(91ページ)

弓池さんは、マクドナルドを例にしていますが、マクドナルドはハンバーガーを売っているから事業が成功したのではなく、アルバイトでもおいしく作ることができるハンバーガーを、大量、かつ、低価格で販売できる仕組みを作ることができたから成功しています。したがって、マクドナルドの事業が成功しているからといって、同社と同じようにハンバーガー店を始めれば成功するということにはなりません。

マクドナルドのように成功するには、マクドナルドと同じような仕組みを作らなければ成功しません。何を売るかに注目していると、判断を誤ってしまいます。ちなみに、このマクドナルドの例は、サイゼリヤニトリユニクロなどにもあてはまるといえるでしょう。そして、この弓池さんの指摘は、多くの方が容易に理解できるものの、起業しようとする方の中には、どのように提供しようかということよりも、何を提供しようかということにこだわる方は、依然として少なくないようです。

もちろん、自分の好きな商品を提供するために、優れた仕組みを構築しようとすることであれば、事業は高い確率で成功すると思います。でも、提供したい商品にはこだわるものの、提供する仕組みを優れたものとできないのであれば、競争力の高い事業とすることはできないでしょう。

2022/6/13 No.2007



ホームランではなくヒットを打つ

[要旨]

事業で成功するには、経営資源の量が多い会社や、経営資源の質が高い会社のように、何か派手なことをするというイメージを持っている方も多いようです。しかし、必ずしも、派手さはなくても、他社を模倣して、少しの改良を加えるという地味な手法でも、成功することは可能です。


[本文]

小説家の犬飼ターボさんの小説、「CHANCE」を読みました。同書は、犬飼さんが、ビジネスノウハウを小説形式で書いているもので、今回は、その中で私が注目したところをご紹介したいと思います。この小説は、主人公の泉卓也が、彼のメンターである弓池から助言をもらいながら、泉が事業家として成長していく内容になっていますが、泉が起業するにあたって、弓池は、次のように泉に助言しています。

「いいかい、社会の構造を変えてしまうような大きな変化を起こしたいのなら別だけど、君のように個人のレベルで成功を目指すのならば、大リーグでホームランを狙う必要はない。草野球でヒットをたくさん打てば十分なんだよ。確実に成功するには、少しの改良で抜きん出ることができる業界を選ぶんだ。つまりこういうこういうことだ。

1.世の中に同じ商売がいくつかあること、つまり市場があること。2.2社以上の大手が熾烈な競争を繰り広げていないこと。大手の競争が激しいと、すでに多数の改良・革新の努力が重ねられていて簡単に真似ができず、入り込む隙がない。逆に1社が占有しているような場合は、独占状態に安穏としていることが多いので、チャンスがある。

3.そういう業界を見つけたら、そこそこ儲けているやり方を真似る。そして、工夫と改善を付け加えて、それより少しでもよいシステムを作り上げる。そうすれば比較的簡単に抜きん出ることができる。この3点をクリアすることはそれほど難しいことではない。こうして成功している人がたくさんいる。画期的ではないからめったに雑誌には取り上げられないけどね」(89ページ)

これは、コトラーの提唱した、地位別競争戦略(リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワー)のうち、経営資源の量が小さく、経営資源の質も低い、弱者が採るべき戦略のフォロワーの戦略です。「成功者」というと、多くの方は、リーダー、チャレンジャー、ニッチャーなどをイメージしてしまいがちではないでしょうか?いずれのポジションも、「華やかさ」があるから、そのように感じてしまうのでしょう。

でも、「成功すること=利益を得ること」と考えれば、フォロワーの戦略で利益を得ることができれば、フォロワーでも成功者になることができます。繰り返しになりますが、経営資源の量が少ない、経営資源の質が低いというと、成功者になれないイメージを持ってしまいがちですが、弱者でも利益を得ることは可能です。すなわち、ホームランを打つだけが点を取る方法ではなく、ヒットを重ねれば点を取ることができるのです。これも当然のことなのですが、経営者の方の中には、ホームランだけを狙い、なかなか点がを取るう方も少なくないと、私は感じています。

2022/6/12 No.2006

 

ブルーオーシャンの発見で業績を伸ばす

[要旨]

や台ずしは、22年間で店舗数が282店に増加しましたが、これは、リーズナブルな寿司を食べながらお酒を飲みたいという需要をとらえたことによるものです。これからは、同社のように、新たな需要を発見し商品やサービスを提供することが、重要になると言えるでしょう。


[本文]

6月5日にTBSで放送された、がっちりマンデーに、すし居酒屋の「や台ずし」が紹介されていました。や台ずしは、店舗数が282店で、5番目に店舗数が多い居酒屋だそうです。ちなみに、1位は、鳥貴族の616店だそうです。では、や台ずしが、なぜ、2000年に第1号店を開店してから店舗数を伸ばしてきたのかというと、回転寿司と居酒屋の中間の需要を取り込んだからのようです。

すなわち、リーズナブルな寿司を食べながらお酒を飲みたいものの、回転寿司店では長居ができないので、そのような要望を持つ顧客をや台ずしでは取り込んでいるようです。これは、同社が、お寿司を食べながらお酒を飲みたいという需要を発見し、そこにポジショニングを行ったことで、ブルーオーシャンをつくったいうことができるでしょう。他社の例では、丸亀製麺は、すでにうどんの外食店が飽和状態であったにもかかわらず、各店舗で製麺し、できたてのうどんを低価格で提供するという戦術で、新たな市場を創造しました。

スターバックスコーヒーも、コーヒーを提供するのではなく、サードプレスを提供するという考え方で、新たな市場を創ってきました。とはいえ、ブルーオーシャンは、簡単には見つけにくいものです。でも、最近、業績を伸ばしている会社は、新しい市場を発見している会社が多いようです。これからは、「●●業」を始めるという観点ではなく、新し市場を創るという発想をすることの重要性が高まってきていると、私は考えています。

2022/6/11 No.2005

 

ハラスメントの再生産

[要旨]

小学生の発明したランドセルについて、ヤフーニュースで多くの批判のコメントがつきましたが、これら批判のための批判のようです。日本には、このような、イノベーションの芽をつぶそうという人の存在が少なからずあり、イノベーションが起きにくい要因になっているようです。


[本文]

ノンフィクションライターの窪田順生さんが、ダイヤモンドオンラインに、小学生が発明したランドセルへの批判に関する記事と投稿していました。「発端は今年4月、栃木県の小学生6人が開発に関わった『さんぽセル』の発売だった。これは2本の棒状のものをランドセルに取り付けるとキャリーケースのように引きずって運ぶことができ、ランドセル運搬に必要な力が90%軽減されるという優れものだ。

しかし、発売を報じたYahoo!ニュースに1000件を超える批判コメントが寄せられてしまったのだ。(中略)『開発者は頭悪いな、ランドセルは子どもが転倒した時に頭を打たないためにあるんだ!』『成長期の子どもがキャリーを引いて歩いたら体のバランスが悪くなって背骨がゆがむ!』『ランドセルは毎日背負って歩くことで下半身が鍛えられるのにもったいない!』」

これについて、窪田さんは、次のように分析しています。「これらの批判は、大前提としていることがかみ合っていないので、建設的な話し合いができないのだ。とにもかくにも、つぶしたい。新しい取り組みなど認められない、そんな結論ありきで、『ちゃぶ台返し』をしているようにしか見えない。このような形で、日本社会にはイノベーションの芽をつぶそうという人たちがいる。(中略)

体罰』や『シゴキ』がわかりやすいが、日本社会は、『オレたちガマンしてきたんだから、お前たちも同じようにガマンしろよ』という感じで、自分が受けたハラスメントを次世代に忠実に再現していく傾向が強い。この『ハラスメントの再生産』こそが、イノベーションを阻んでいる一要因だと個人的には考えている」

私も、窪田さんの指摘する、「ハラスメントの再生産」を会社勤務時代に経験しており、仕事の労力の多くをこれへの抵抗に費やしていたと感じています。こういった経験から、「ハラスメントの再生産」は、窪田さんと同様に、あってはならないと私も感じています。とはいえ、ハラスメントの再生産は、感情の問題なので、これをなくすことはとても難しい課題だと思います。

でも、そういった非生産的な慣行をなくすことによって、業績を高めている会社も存在します。これからの経営者は、生産活動や販売活動よりも、ハラスメントの再生産を解消するといった、経営環境(内部環境)の改善に力を発揮することが求められているのではないかと、私は感じています。

2022/6/10 No.2004