鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

商品にこだわりがあるとうまくいかない

[要旨]

マクドナルドは、ハンバーガーを販売することで成功したわけではなく、アルバイトでも同じ味のハンバーガーを作ることができる仕組みを作ったことから成功しています。したがって、商品だけにこだわりすぎて、その商品を提供する仕組み作りが疎かになると、競争力は高いものとはなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、犬飼ターボさんの小説、「CHANCE」から、私が気づいた点についてご紹介したいと思います。主人公で青年起業家の泉卓也は、メンターの弓池から、新しく始める事業として、整体院の提案を受けますが、泉は整体師でもなく、また、これまで興味を持ったこともなかったので、自分がそのような事業を行なっても成功できるのかと疑問を持ちました、これに対し、弓池は、次のように説明します。

「ではマクドナルドはどうだろう。とても優れたビジネスシステムだね。世界中どこでも同じ味のハンバーガーを食べることができる。それを作っているのは長年修業した一流のシェフじゃなくて短期間の研修を受けたアルバイトだ。マクドナルドはそのシステムのおかげで成功を収めている。それでは、あのビジネスシステムを作った人はハンバーガーが好きだと思うかい。そう、好きかもしれないし、好きじゃないかもしれないよね。

つまり、ビジネスの成功とその商品やサービスに興味があるかどうかはあまり関係がないんじゃないかな。最低『嫌い』でなければいいと思うよ。嫌いなものを扱うのは苦痛だからね。むしろ、商品やサービスにこだわりがある人は、こだわりすぎて商品やサービスしか見えなくなってしまう。そうすると経営はうまくいかない。商品が好きだということ、それを売るということは、本当はまったく別のものだからね」(91ページ)

弓池さんは、マクドナルドを例にしていますが、マクドナルドはハンバーガーを売っているから事業が成功したのではなく、アルバイトでもおいしく作ることができるハンバーガーを、大量、かつ、低価格で販売できる仕組みを作ることができたから成功しています。したがって、マクドナルドの事業が成功しているからといって、同社と同じようにハンバーガー店を始めれば成功するということにはなりません。

マクドナルドのように成功するには、マクドナルドと同じような仕組みを作らなければ成功しません。何を売るかに注目していると、判断を誤ってしまいます。ちなみに、このマクドナルドの例は、サイゼリヤニトリユニクロなどにもあてはまるといえるでしょう。そして、この弓池さんの指摘は、多くの方が容易に理解できるものの、起業しようとする方の中には、どのように提供しようかということよりも、何を提供しようかということにこだわる方は、依然として少なくないようです。

もちろん、自分の好きな商品を提供するために、優れた仕組みを構築しようとすることであれば、事業は高い確率で成功すると思います。でも、提供したい商品にはこだわるものの、提供する仕組みを優れたものとできないのであれば、競争力の高い事業とすることはできないでしょう。

2022/6/13 No.2007