鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

失敗と発明は切り離せない双子

[要旨]

アマゾンは、発明(成功)を得るには、失敗を経ることは欠かせないと考えており、従業員の評価制度においても、成功したかどうかではなく、どれくらいのリソースを注いだのかというプロセスで評価する仕組みを採り入れています。そのような仕組みがなければ、真に革新的な発明を得ることはできないようです。


[本文]

アマゾンジャパンOBで、コンサルタントの谷敏行さんのご著書、「AmazonMechanism-イノベーション量産の方程式」を読みました。同書で最も印象に残った言葉は、アマゾン創業者のベソスの言葉として紹介されている、次のものです。「失敗と発明は切り離せない双子です。発明するためには実験しなければなりません。成功すると事前にわかっているなら、それは実験ではありません。ほとんどの大企業は、発明という概念を受け入れはするものの、そこに到達するために必要な、失敗に終わる実験の連続に対しては、寛容ではありません」

「失敗は成功のもと」という言葉の意味は多くの方が理解し、また、その意図するところも賛同すると思います。しかし、ベソスも指摘しているように、実際には、失敗が続くことに寛容ではない会社は少なくないようです。だからこそ、失敗への寛容さが、「発明(≒成功)」の重要な鍵となるということを、ベソスは指摘しているのではないかと思います。では、アマゾン以外の会社でも失敗に寛容になるためにはどうすればよいのかということですが、それを説明するには、多くのスペースが必要になり、この記事では書き切れない量となるでしょう。

そこで、あえてひとつを示すとすれば、私は、インプットではなくアウトプットで評価する仕組みをあげたいと思います。これは、アマゾンでは、プロジェクトで失敗したとしても、そのことでプロジェクトのメンバーがネガティブに評価されない仕組みになっているということです。すなわち、プロジェクトが失敗すれば、インプット(資金流入や利益獲得)は少ないか、または、得られないということになりますが、失敗と発明は双子なのですから、失敗によってインプットの量が減少したときに、それをネガティブな評価にするのであれば、発明そのものも否定することになります。

そこで、アマゾンでは、アウトプット(リソースの投入量≒プロセス)で評価し、失敗という結果では評価しない仕組みとしているようです。このような仕組みは、採り入れた後に、直ちに効果が現れないと思いますが、徐々に浸透させていくことによって、会社の中に失敗への寛容さが定着していくでしょう。日本の会社でも、「失敗を恐れず、チャレンジ精神をもって事業に果敢に臨むことが大切だ」と口にする経営者の方を見ることは珍しくありませんが、それが掛け声倒れに終わっていることも少なくないと思います。そのようになってしまう理由は、その会社が、アマゾンのように、アウトプットで評価する仕組みをつくっていなからと言えるでしょう。チャレンジ精神が本当に大切なら、チャレンジ精神を最も評価する仕組みがなければならないことになりますが、経営者がそこまで徹底していなければ、部下からは、経営者の本心が見透かされてしまいます。

2021/12/29 No.1841

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「B面活動」による意識改革

[要旨]

三島食品では、かつては、創業者の影響力が大きく、従業員の方たちの考え方が硬直化していたことから、二代目社長の三島豊さんは、「会社に関係することなら勤務中でも自由にやっていい」という制度の「B面活動」を採り入れ、挑戦的な会社組織を育成し、業績を高めて来ました。


[本文]

先日、テレビ東京の番組のカンブリア宮殿で、三島食品が紹介されていました。同社は、広島県で創業した会社ですが、ふりかけの「ゆかり」などが主力商品で、現在は会長の三島豊さんが、1992年に、二代目社長として経営を引き継いでから、売上高138億円まで業績をのばし、業界では丸美屋に続く第2位の地位を築いています。

当然、同社では、競争力の高い製品の開発に注力してきたわけですが、私は、同社の「B面活動」に注目しました。この「B面活動」は、次のようなことがきっかけになって行うようになったそうです。すなわち、三島さんが経営を引き継いでから、工場の壁に、「安全の注意点」を書いた紙を貼ろうとしたところ、古参の幹部従業員から、「先代は『工場はスッキリ清潔に』と仰っていた」と言われ、掲示することに反対されたそうです。

この経験から、三島さんは、同社社内への先代社長の影響力が大きく、考え方が硬直化しているとを感じ、意識改革をする必要性を感じたそうです。そこで、三島さんは「B面活動」を始めることにしたそうですが、この「B面活動」とは、「会社に関係することなら勤務中でも自由にやっていい」という制度のことだそうです。「B面活動」を行う日は、ある従業員の方は、終業時刻になる前の3時に工場を離れ、チラシや漫画を描いているそうです。

その方は、別の従業員の方の自己紹介漫画も描いていて、取引先にそれを名刺代わりに渡すことで、商談に発展するツールになっているそうです。その他に、「B面活動」では、会社のオリジナルソング作り、ノベルティグッズ作り、製造機械の改良、赤じその香りのするリキュールの開発などが行われているそうです。私は、この「B面活動」は、QCサークルの小集団活動に似ていると考えていますが、小集団活動よりももっと自由度が高い活動であると考えています。

そして、前述の例では、営業ツールや新製品開発などが直接的な成果となって表われていますが、それだけでなく、「B面活動」の経験を通して、従業員の方が自律的になり、そのことが、挑戦的な会社の風土の醸成につながり、事業全体の業績を高めてきたと考えることができると思います。そして、そのような組織風土の改善の手法を考え、実践し、定借させることが、経営者としての大切な役割であるということを、改めて感じました。これからも、製品のふりかけだけでなく、三島食品の動きにも注目して行きたいと思います。

2021/12/28 No.1840

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採用の時点で幹部に育成する視点を持つ

[要旨]

経営コンサルタント小宮一慶さんは、その人のを、将来の幹部にするという視点を持たずに採用すると、採用後も幹部に育たないと指摘しています。そのようなことが起きないようにするためにも、まず、自社のキャリアパスや人材育成方針を明確にすることが大切です。


[本文]

経営コンサルタント小宮一慶さんの、ダイヤモンドオンラインへの寄稿を読みました。小宮さんは、新卒で東京銀行(現在の三菱UFJ銀行)にご勤務された経験があるそうですが、同行では、職員数約6,000人のうち、半数の約3,000人が女性であり、小宮さんが同行での10年間のご勤務の間、3回ほど女性の上司のもとで働いたことがあるそうです。このご経験から、小宮さんは、男女に能力の差はないと考えているそうですが、中小企業に女性経営幹部や役職者が少ない要因には、「将来の経営幹部」という視点で女性を採用せず、一般的な事務職として採用しているからだとご指摘しておられます。

私は、小宮さんのご指摘はその通りだと思うのですが、女性を事務職としてしか採用しない要因の前に、中小企業では、キャリアパスや育成方針がないために、女性=事務職という固定的な考え方をしている会社が多いのではないかと思います。キャリアパスとは、従業員の方がどのような業務経験やスキルを習得すれば、どのポジションや役職に就くことができるかということを明確にしたものですが、中小企業では、実態としては、法律で作成が義務付けられている就業規則も存在しないことが珍しくなく、さらに、キャリアパスについては、社長自身も必要性がないと考えていることも多いようです。

ひとことで言えば、採用することだけが目的になっていて、採用した後のことは成行という会社が多いのではないでしょうか?そのような会社では、従業員の方が向上心を持っていたとしても、会社から自分はどのような能力を望んでいるのかが不明確であり、足踏みをすることになってしまうでしょう。また、会社側も、従業員に対して、長期的な視点からの育成活動は行わず、その場その場で、こういう仕事をして欲しいとしか要望を出さないことになり、次の会社を牽引してくれるような幹部候補はなかなか育たないでしょう。

現在の経営環境の変化は激しく、目の前の課題への対応だけで精一杯という会社も多いと思いますが、事業を支える人材育成にも目を向けなければ、会社には受動的な対応しかできない人材だけになってしまうでしょう。そこで、自社に、まだ、キャリアパスや人材育成方針がないという会社は、社長の考え方を明文化し、それを社内で周知することから始めるだけでも、従業員の方の士気が向上し、リーダーシップを発揮してくれる方が現れるものと思います。

2021/12/27 No.1839

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経営者と従業員が一緒に学ぶ効果

[要旨]

事業の改善のために、経営者の方が研修を受けることは珍しくありませんが、幹部の方をはじめ、従業員の方といっしょに学ぶ経営者の方はあまり多くないようです。しかし、事業活動は組織的な活動なので、できるだけ多くの方がいっしょに学ばなければ、研修の効果はあまり期待できません。


[本文]

経営コンサルタントの小山昇さんのラジオ番組にご出演しておられた、株式会社森甚の社長の森田径さんのお話を聴きました。森田さんによれば、森田さんは小山さんの会社のコンサルティング会員になり、小山さんの会社のコミュニケーション研修を受けていたのですが、その研修には、森田さんの会社の幹部の従業員の方にも受講してもらったそうです。その結果、いっしょに学んだ方と、改善が必要になる点を共有することができ、大幅な効果が得られたということです。

このような体験談に対しては、複数の人が同じ研修を受けたのだから、当然の結果と考える方も多いと思います。しかし、中小企業の多くは、事業の改善のために、外部研修などを活用しようと社長が考えても、社長だけが研修などを受講したり、教材で学んだりするだけで、従業員の方たちは、新たなことを学んだ社長から、一方通行で指示を受けるだけになるということが多いと思います。

すなわち、学ぶのは社長だけなので、従業員の方たちはその背景などもわからずに、一方的に新たなことをやらされるので、社長の期待するような結果に、なかなか至らないのではないでしょうか?このような状況であれば、いくら社長が学んでも、改善活動は限定的な効果しか得られなくなるでしょう。さらに、もっと大切なことは、社長だけが学ぶのではなく、従業員の方にも学んでもらうことは、従業員の方の士気が高まるということです。

前述のように、研修を複数で受けることは、研修の内容を共有でき、複数の人で改善活動に臨むことができるという利点だけでなく、受講した人の士気や当事者意識が高まることが期待できます。事業活動は組織的な活動なので、その組織の改善活動も組織的に行うことが適切なはずなのですが、その点に気づいている経営者の方は、意外と少ないのではないでしょうか?繰り返しになりますが、会社の改善活動は組織的に行うことの方が効果が高い、いえ、むしろ、組織的に行わなければ効果を得ることができないということを、森田さんのお話を聴いて、改めて感じることができました。

2021/12/26 No.1838

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日本酒は安すぎるから粗末に扱われる

[要旨]

日本酒は、原価から値決めをするということが多く、その結果、販売価格が安くなることから、買い手からも高く評価されていません。でも、品質管理をきちんと行うことによって、ワインのように、適正な価格で評価されるようになります。このように、価格はどのような要素で決まるのか、きちんと分析することが大切です。


[本文]

ダイヤモンドオンラインに、黒龍酒造代表の水野直人さんへのインタビュー記事がありました。「醸造家が想いを込めた手造りの日本酒は安すぎると思うんです。安すぎるから粗末に扱われる。これが高額だったら、品質や信頼を落とした時には大変なことになりますよね。品質管理を真剣に行うと思います。だから、自信をもって値付けしていくことが大事です。日本酒業界はまだまだ原価計算で値付けがされる。でも、そのものの価値で値付けがされた方がいいです。

小さなワインメーカーでも、世界的に認められて、収益を得ているところがありますよね。日本酒でもそうなれば、雇用や設備に投資できますし、新たな商品も開発されていきます」水野さんは、ワインの流通方法などを参考にしながら、日本酒の価値向上に取り組んで来た方です。このように書いては安易すぎるかもしれませんが、ワインには価格の高い銘柄があるわけですから、日本酒にも同様のものがあっても不思議ではないと思います。

そして、水野さんは、その原因として、日本酒では、「原価計算で値付けされる」ことを挙げています。でも、日本酒の本来の価格は、ワインと同じように、品質管理が大きな部分を占めていると水野さんは指摘しています。品質管理をきちんと行っていれば、それに応じた価格で評価されます。この論理は理解が容易と思いますが、日本の多くのメーカーでは、あまり実践されていないようです。ちなみに、この考え方に基づいた値決めを行えるようにするための方法として、価値連鎖分析を行うとよいと思います。

繰り返しになりますが、日本酒の価格が、原価からのみで決められているとすれば、適正な値決めは行われないでしょう。でも、価値連鎖分析を行うことによって、品質管理に価値があるということを理解できれば、適正な値決めをすることができるようになると思います。日本のメーカーには、目に見えない無形なものに価値をつけることができないという先入観を持っている会社は、まだ、少なくないと思います。でも、まず、無形なものであっても価値があると考えなければ、水野さんの指摘するように、「安すぎるから粗末に扱われる」という状況に陥ったままになってしまうでしょう。

2021/12/25 No.1837

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表面をぼかし加工した鏡がヒット

[要旨]

これまでは製造業は、製品の製造をすることが事業の重要な要素でしたが、いまはそれは製品の開発に移りつつあります。したがって、経営者の方は、人材や組織の能力を高めることに注力して行く必要があるでしょう。


[本文]

業務用ミラーでトップシェアを持つメーカーである、コミーの小宮山栄社長へのインタビュー記事が、日経ビジネスに載っていました。いま、同社製品で、表面にぼかし加工をした鏡がヒットしているそうです。同社は、衝突防止用の鏡を製造していますが、奥が見えないようにするために、トイレでは使われていなかったそうです。

しかし、表面をぼかせば、人が来る気配だけがわかるようになるので、いま、需要が伸びているそうです。これは、コロンブスの卵的な製品ですが、製造業であっても、単に、製品を製造すればよいということではなく、マーケットインの考え方で事業に臨んでいるということがわかります。

「すぐ売り上げになるかどうかは考えず、面白ければやってみるのがコミー流です。ものになるのに5年、10年かかることもあるけれど、そのプロセスもまた面白いものです。コミーは売り上げの拡大よりも出会いの喜び、創造の喜び、信頼の喜びを大事にしています。大抵の中小企業は他社と競争するものだと思いますが、当社は競争しません。いろんな種をまいて、それらが育って花が咲き、実がなったらお金になるという、農業的な生き方の会社です」

これは小宮山さんのことばですが、これも頭では理解できても、実践することは容易ではないと思います。しかし、製品開発力を持たないと、競争力の低い製品しか製造できなくなるので、価格競争に巻き込まれるだけになってしまいます。これまでは、製造業は、製品の製造をすることが、事業の重要な要素でしたが、それが、いまは製品の開発に移りつつあると思います。だからこそ、経営者の方は、人材や組織の能力を高めることに注力して行く必要があるでしょう。

2021/12/24 No.1836

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売上目標をなくしたら売上が3倍に

[要旨]

飯田屋では、売上目標やノルマなどをなくしたところ、11年間で売上が3倍になり、また、赤字を脱し、史上最高の黒字になったそうです。これは、自社のドメインを、料理道具の販売ではなく、顧客の課題を解決するという定義を行ったことによると考えることができます。


[本文]

今回も、かっぱ橋道具街の料理道具専門店の飯田屋の社長、飯田結太さんのご著書、「浅草かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟」を読んで、私が注目したことについて述べたいと思います。飯田屋では、3つの「やらないこと」を決めたそうです。すなわち、(1)料理道具以外の品揃え、(2)価格競争、(3)売上目標やノルマをなくしたそうです。さらに、飯田屋には、会議もマニュアルもないそうです。

すなわち、同社では、従業員の自主性が武器になっているようです。その結果、飯田さんが社長に就任した2009年から、2020年の11年間で、飯田屋の売上高は3倍になったそうです。利益も、2009年時点では数百万円の赤字の状態から、2020年は同社史上最高の黒字となったそうです。では、飯田屋以外の別の会社でも、品揃えを絞り、値引きはせず、売上目標をなくせば、売上は増えるのでしょうか?

残念ながら、私は、多くの会社は、飯田屋のようにはならないと考えています。なぜなら、飯田さんは、「3つのやらないことを決めた」という言い回しをしていますが、実際には、「困っている顧客の課題を解決するための支援をする」ことで、付加価値の高い商品を販売している、すなわち、ソリューション提供型ビジネスを実践しているからです。これを実践するためには、職場環境を整備し、従業員のスキルやモラールを高めることから始めなければなりません。

とはいえ、私は、ここで、「ソリューション提供型ビジネスを実践しなければ、事業は成功しない」ということを述べようとは考えていません。私が、コンサルタントとして、事業改善のご相談を受ける中で、「事業の改善の方法が見つからない」ということに悩んでいる経営者の方に、よく、お会いするのですが、実は、それは事実と異なると感じています。

なぜなら、そのような会社では、飯田さんのような、ソリューション提供型ビジネスを実践している会社は、あまり多くないからです。別の言い方をすれば、「もの」ばかりを売ろうとしていて、「こと」を提供しようとする会社は少ないということです。でも、21世紀のものがあふれている時代では、「もの」だけを売ろうとすることは、レッドオーシャンの中で競争しようとするようなものです。

でも、「こと(課題解決)」を欲している潜在顧客はたくさん存在しており、だからこそ、飯田屋は、業績を伸ばしているのでしょう。そこで、いま、事業がなかなかうまくいっていないという経営者の方は、まず、実際にソリューション提供型ビジネスを実践できるかどうかを考える前に、21世紀型のビジネスとはどういうことかということから、考えてみてはどうでしょうか?そして、飯田さんのご著書を読むことで、そのよいきっかけになるのではないかと、私は考えています。

2021/12/23 No.1835

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