[要旨]
キリンビールは、かつて、60%のシェアを持っていましたが、そのことが自社を慢心させ、商品開発や営業努力を怠ったことから、アサヒビールの追撃に敗れ、シェアトップの座を奪われました。この同社のような成功体験が自社を苦境に陥らせてしまうことは、「成功の復讐」と呼ばれ、これを避けるためには、常に経営戦略を見直し、挑戦し続けることが求められます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、旭山動物園は、1983年の来園者数は60万人だったものの、1996年には26万人に落ち込み、閉園の危機に直面しましたが、その状況を打開するため、現場主導で工夫を行い、「スター動物」に依存するという手法から、「行動展示」という手法に切り替え、動物の種類ではなく見せ方による差別化を行うようにしたことで、2006年には来園者数が200万人になるほどの人気の高い動物園になったということについて説明しました。
これに続いて、遠藤さんは、キリンビールがリーダーの座をアサヒビールに奪われたことについて述べておられます。「一度成功してリーダーの地位を手に入れると、どうしても、会社全体が、知らぬ間に、その成功の上にあぐらをかき、慢心してしまいがちです。そうなると、業績が下降線を辿り始めても、なかなかその現実を直視できません。いつまでも、『自分たちはこうやって成功してきたんだ』と、過去の栄光にしがみつきがちです。
その結果、経営が大きな危機に瀕する苦境に陥ってしまいます。これを『成功の復讐』と呼びます。過去の成功に固執し、進化の努力を怠れば、必ず大きなしっぺ返しがくるのです。その典型的な事例として有名なのが、長年ビール業界の王者であり続けたキリンビールです。一時期は、60%のシェアを誇るほど、確固たる“万年リーダー”の座に君臨していました。しかし、『スーパードライ』をひっさげて、起死回生の攻勢をかけてきたチャンレンジャー、アサヒビールの追撃にあい、シェアを逆転され、トップの座から陥落してしまいました。(中略)キリンがアサヒに負けた理由は明白です。
『ラガー』に代表される『定番』商品の上にあぐらをかいていたからです。当時、『ラガー』は、放っておいても売れるほどの人気商品。営業の現場では『売る』ことを『配給』すると言っていたほど。需要が供給を上回る状態が続いていました。その結果、商品開発や営業努力に腰が入らず、アサヒの追撃を許してしまったのです。リーダー企業といえども、慢心と緩みが企業内にはびこると、『成功の復讐』に足元をすくわれてしまいます。リーダーであり続けるためには、リーダーの座に安住することなく、常に経営戦略を見直し、挑戦し続けることが不可欠なのです」(200ページ)
遠藤さんがご指摘しておられるように、成功体験のある人は、どうしても慢心してしまうので、成功の復讐を受けてしまうということは、ほとんどの方がご理解されると思います。そして、私は、成功した人は成功の復讐から逃れることはできないと考えています。といっても、経営者の方たちは自己管理能力がないので、慢心してしまうというよりも、私自身(といっても、成功者にもなっていませんが…)も含めて、人間には限界があるので、慢心することは避けることができないと考えています。
上場会社等に限られているとはいえ、内部統制が法律で義務付けられるようになったにもかかわらず、いまだに日本の会社で不祥事が後を絶たないのは、それは、制度的な問題ではなく、どうしても慢心してしまうという、人間的な限界によるものだと、私は分析しています。では、「成功の復讐」にはまったく対処することができないのかというと、努力することによって、「復讐」を遅らせたり、「復讐」の影響を弱めることは可能だと思っています。
では、そうなるためにはどのようなことをすればよいのかというと、遠藤さんもご指摘しておられるように、「常に経営戦略を見直し、挑戦し続けること」だと、私は考えています。自社の経営戦略が、経営環境に適しているかどうか、常に検証していけば、間違った経営戦略を実践することは避けられるようになるでしょう。でも、どうしても、人は、心の深いところでは、変化することをことを避けようとするので、経営環境が変わっても、それに合わせて活動を変えることを躊躇するかもしれません。それでも、経営戦略の見直しをしない会社よりも、見直しをする会社の方が、誤った戦略を実践してしまう危険は少なくなると思います。
2024/4/3 No.2667