鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『当座買い』には大きなメリットがある

[要旨]

稲盛和夫さんは、京セラでは、材料などをまとめ買いせず、必要な都度、必要な分だけを購入する、当座買いを行っていると述べておられます。なぜなら、まとめ買いをすると、在庫費用や不良在庫の発生を避けることができるほかに、作業工程で材料を粗末に使ってしまうことにつながるからと考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィ」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、会社の業績は結果でなく、経営者の意志が反映されたものであると考えており、その理由は、売上を増やすことも、経費を抑えることも、経営者の意志でできることであるからということを説明しました。これに続いて、稲盛さんは、材料などは、まとめ買いではなく、必要な都度、必要な分だけを購入する、当座買いが妥当であるということを述べておられます。

「当座買いは、一般には高くつくだけで、常識に反するやり方だと思うことでしょう。ところが、そうではありません。それは、実に合理的な買い物の仕方なのです。なぜなら、当座買いは高くつきますから、必要な分だけしか買いません。人間と言うのは面白いもので、必要ギリギリの数しかないと思うと、どんなものでも実に丁寧に、大事に使うようになります。ところが、それが倉庫に山ほどあるとなると、どうしても粗末に使ってしまいがちです。(中略)

例えば、品物を1,000個組み立てようとするときに、1,005個分しかビスやボルトといった部品がないとすると、ビス1本落としても、何とか探し出そうとします。反対に、ビスが山ほどあると、1つや2つなくなっても、まったく気になりません。大量にまとめて安く買ったつもりが、結局は、ロスを生じさせて、安くならないことになります。そこに、当座買いのメリットがあるわけです。また、必要な分しか買わなければ、倉庫も要らず、そのための管理費も必要ありません。さらに、在庫ではありませんから、在庫金利も発生しません。京セラで今もなお生きている、この、「当座買いの原則」は、経営上、非常にメリットがあるのです」(512ページ)

稲盛さんは、当座買いの対義語としてまとめ買いを指摘し、それを批判しておられます。私は、まとめ買いが、必ずしも誤っているとは限らないと思っています。例えば、流行品を扱うファッション業界では、ビジネスチャンスを逃さない手段として、まとめ買いをすることは妥当だと思います。また、規模の経済を追求する場合も、必要な範囲で購入するという前提で、まとめ買いをすることは妥当だと思います。

しかし、これらの例は一般的ではないので、特に、多くの中小企業では、稲盛さんのいう当座買いが妥当であり、原則的な材料の調達方法だと思います。そして、稲盛さんの意図するところは、当座買いによって、トヨタカンバン方式と同じように、在庫の最小化を実現することだと思います。すなわち、稲盛さんは、無計画な材料の購入は、無駄が発生する余地が大きいので、それを避けるべきだというご主張をしておられるのでしょう。このような隙のない事業活動を継続することは重要ということに間違いないと思います。

2023/11/23 No.2535