鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

信頼関係がなければSCMは完成しない

[要旨]

タビオ創業者の越智さんは、同社にSCMを導入して成功した要因は、協力工場が、よい製品を顧客に提供しようという志を共有してくれたからだと分析しています。そして、それは、協力工場と信頼関係があるという土台があるから可能となったのであり、このような組織をつくることは、システムをつくることの何倍も難しいと考えているそうです。したがって、経営者の方は、新しいシステムを導入して事業を改善しようとするときは、単に、システム導入にだけ注力せず、協力してくれる人たちの協力を得られるための働きかけにも多くの注力をする必要があると言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、越智直正さんのご著書、「靴下バカ一代-奇天烈経営者の人生訓」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、越智さんがタビオにSCMシステムを導入し、事業改善に成功したあと、そのシステムは、他社から大きな関心が寄せられましたが、越智さんが、「いくらシステムが立派でも、情報伝達の道具に過ぎず、大切なのは、背景にある考え方や思想である」と説明しても、それを理解する人は少なかったということを説明しました。これに続いて、越智さんは、タビオのSCMシステムを奏功させることができた要因について述べておられます。

「うちのシステムが、絵に描いた餅にならなかったのは、『何としても、良質な靴下を作る』という同じ志を持ったサムライたち、つまり工場の協力があったからです。サムライチェーンの構築に際し、協力工場には、端末機とソフトを入れてもらいました。(その投資額は)新台の編み機が10台くらい買える金額です。売れた分だけ、即座に作る仕組みを構築するには、どうしても、それだけの投資が必要でした。

(しかし、協力)工場は、生産設備にはお金をかけますが、付帯するものにはかけたがらない。(そのため、当初は)『そんなものに投資するより、今まで通り注文をもらった方が得や』と、大反対されました。しかも、工場ごとにバラバラだった、工程管理をはじめ、取引している紡績工場、糸商、染色工場、備品会社に至る、細々としたところまで統一しなければなりませんでした。(中略)(しかし)今これを導入しなければ、今後、我々は生きていけないと訴え、お願いし続けました。

(そして)根気よく説得し、ようやく2年が経った頃に、『そこまで言うなら』と、折れてくれる人がぽつぽつと出てきた。なぜ、大多数が協力してくれたのか。それは、信頼関係の土台があったからやと思います。こうした仕組みを構築するには、協力工場と志を一にすることが欠かせません。工場で働く人たちが店頭と同じ呼吸をする生産集団にならなければ、店頭の情報など意味がない。そして、そんな集団をつくり上げることの方が、システムづくりより何倍も難しいことなのです」(167ページ)

越智さんがご指摘しておられるように、SCMは協力工場の協力が必要であり、その協力を得るためには元請会社と協力工場との間の信頼関係が必要であり、また、このような関係づくりは、システムづくりの何倍も難しいということは、多くの方がご理解されると思います。これを言い換えれば、SCMを組成し、さらにうまく機能させるためには、システムそのものをつくることよりも、SCMの構成員に対して良質な製品を顧客に提供しようとする志を持ってもらうことの方が大切ということです。

他社の例で見れば、トヨタカンバン方式は、協力工場は、必要な数量の部品だけを納品するという、ある意味、考え方としては単純な方法です。でも、単純であるにもかかわらず、それを実践するには、それなりの労力が必要であり、トヨタほど徹底して行っている会社はほかにほとんどありません。したがって、カンバン方式も、それが真に奏功している要因は、トヨタと協力工場が持っている、「カイゼン」という思想の深い定着と考えることができます。

このようなことから、多くの会社で改善活動がうまくいかないときのその要因は、経営者の事業を改善しようという意欲が、経営者だけで空回りしているからではないかと、私は考えています。すなわち、よく、経営者が、新しい経営戦略を実行しようとするとき、経営者が旗を振っても、部下たちが誰も着いてこないということがありますが、これは、改善しようという志が従業員の方たちと共有できていないからでしょう。

ところが、繰り返しになりますが、現状を改善しようとするとき、多くの経営者の方は、新しいシステムや新しい経営戦略だけに目が向いてしまいがちです。そして、事業を改善しようという意思を共有してもらうという働きかけをせずに、単に、システム導入や経営戦略の実行だけしなければ、それらは失敗してしまう確率は高くなることは、当然といえるでしょう。

2023/11/5 No.2517