鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会社は経営者の野心を満たす場ではない

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、同社社長に就任してから、「自分がやりたいかどうか」ではなく、「現場との距離を縮められるかどうか」を最優先する、すなわち、会社の事業拡大に専念した結果、ご自身も経営者として成長できたと考えているそうです。このように、会社は、経営者の野心を満たすためにあると考えることは避けた方がよいということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫俊亮さんが、かつて、マザーハウスに勤務していた時、同社の台湾進出に際し、現地に詳しい日本人に現地のマネジメントを任せたことがありましたが、その方が、それまでマイクロマネジメントをするタイプだった迫さんが、リーダーの本来の仕事に集中できるようになり、組織のパフォーマンスが向上したということを説明しました。

これに続いて、迫さんは、リーダーになる人は、「自分がやりたいかどうか」を考えるべきではないということを述べておられます。「『自分が好きか嫌いか』、『やりたいかやりたくないか』も、リーダーは考える必要はない。例えば、僕は、もともと、カラオケのような、賑やかな場に率先して参加するタイプではなかった。新卒で三菱商事に入社した直後の歓迎会では、一人だけ一次会で帰り、先輩たちを唖然とさせたこともあったほどだ。

しかし、いまは、(ミスターミニットの)社員との時間を共有できるのであれば、まったく厭わずに、むしろ、喜んでその場に出向く。別に、賑やかな場所が好きになったわけではない。ただ、『事(こと)』に向かって、やるべきことをやる……つまり、『自分がやりたいかどうか』ではなく、『現場との距離を縮められるかどうか』を考えるのがリーダーの仕事なのだ。(中略)『現場の力をもっと活かすにはどうすればいいか』、『現場の人が幸せに働くにはどうすればいいか』、ミスターミニットの社長になった僕おは、気がつくと、自分の成長なんて、ちっとも考えていなかった。

会社をつくり直し、大きく成長させることだけを考えていたら、主語が『オレ』だったときよりも、ずっとリーダーとしていい働きができている。そして、自分の成長を考えているときより、100%やるべきことに集中しているいまの方が、結果的にずっと成長しているのだ。当たり前だが、個人の野心を満たすために組織があるわけではない。リーダーの仕事は、組織の可能性を100%発揮できるよう導くことだ」(102ページ)

この迫さんのご指摘は、端的に言えば、経営者は縁の下の力持ちに徹するべきということであり、これもほとんどの方がご理解されると思います。とはいえ、「『自分が好きか嫌いか』、『やりたいかやりたくないか』も、リーダーは考える必要はない」という迫さんのご指摘は、経営者にとっては、「何のために経営者になるのか」と感じてしまうかもしれません。恐らく、多くの経営者の方は、自分のやりたいことをやりたいから、経営者に就こうと考えているのではないでしょうか?

でも、迫さんは、「個人の野心を満たすために組織があるわけではない」と、そういった考え方を否定しています。これは、経営者の方にとっては少しつらいかもしれませんが、現在は、組織を最優先しなければならない時代なのだと思います。しかし、迫さんは、組織を最優先させた結果、自分も経営者として成長できたと述べておられます。したがって、経営者の方は、組織最優先の活動ができるかどうかが、会社の業績を左右する鍵になっているということです。しかし、繰り返しになりますが、経営者の方が組織最優先の活動をすれば、自分自身も経営者として成長できるのです。

2023/10/12 No.2493