[要旨]
中小企業経営者の方の中には、銀行は銀行の都合で融資取引を引き上げることがあるので、メインバンクを当てにできないと考えている方もいるようです。しかし、そのような銀行は、ほぼ、存在しません。また、銀行は、最終的には銀行の損失が発生しないように、融資相手を選別しますが、融資相手の経営者と一定のコミュニケーションが確保されていれば、前触れなく融資取引を縮小することはしません。
[本文]
前回の記事で、有力な銀行をメインバンクにすることは、資金調達を安定化させる要因になるということを説明しました。ところで、メインバンクに関して、中小企業経営者の方の中には、「銀行は、晴れの日に傘を貸して、どしゃぶりの日に傘を取り上げるようなことをするので、メインバンクを当てにすることができるのか?」という疑問を持つ方もいるようです。なお、メインバンクの定義ですが、人によっては、自社の融資取引の中で、最も多くの融資をしている銀行、すなわち、融資シェアが最も高い銀行という意味で使う方もいますが、ここでは、融資額に限らず、取引年数や、融資取引以外の取引量などを勘案して、自社が最も頼りにしている銀行ということとしたいと思います。もちろん、ほとんどのメインバンクは、融資シェアも高いので、結果として、両者はほぼ同義と言えるかもしれません。
話しを戻して、銀行は、基本的には、融資相手の会社の業績がよいときには、融資取引額を増やそうとする一方で、業績が傾いている会社には、融資取引を縮小しようとすることが一般的です。それは、銀行が、業績のよい会社に融資取引額を増やすことは、利益を増やそうとするための活動であるし、業績の傾いている会社への融資取引額を減らそうとすることは、損失が発生する機会を減らそうとするための活動です。このような、利益を増やそうとしたり、損失の懸念を減らそうとしたりする活動は、銀行業務は営利を目的としているという観点から、当然のことと言えます。
その一方で、銀行には公共的な使命があるので、銀行の都合だけを優先することは、却って、銀行の信頼を損なってしまうことになります。そこで、銀行は、業績が傾いている融資相手の会社には、業績が改善するような支援をしたり、また、やむを得ず、融資取引を縮小するときは、前もって理由を説明をするなど、融資相手の会社に寄り添った対応をするでしょう。それでも、中には、そのような対応をしない、不心得な銀行(または銀行職員)もあることも事実だと思いますが、そのような銀行は少数であり、一般的な銀行の対応として捉えることは妥当ではないでしょう。
ここまでの内容をまとめると、銀行は、必ずしも、自社の要望をすべて受け入れてくれるとは限らないのですが、基本的には、融資相手の会社の要望に寄り添う活動をしているということです。それでも、会社経営者の中には、銀行に苦手意識を持っている方がいるようです。とはいえ、業績のよい会社に対しては、銀行は融資取引を拡大しようとするわけですから、銀行を苦手と感じる経営者が経営する会社は、業績があまりよくない会社であると考えられます。そうであれば、銀行は、そのような会社に対しては、業績が振るわない要因など、経営者にとって説明を避けたいと感じることをきかれることになるので、苦手意識を持つことになるでしょう。
話しをもどして、メインバンクを当てにできるのかという疑問ですが、基本的には当てにできると、私は考えています。ただし、業績があまりよくなく、さらに、銀行に対して現在の業況や、今後の改善見込について説明ができなければ、協力を得ることは難しいということも事実だと思います。厳しい言い方ですが、もし、業績は悪いけれど、その原因についても、今後の改善見込についても説明せずに、融資に応じてくれる銀行でなければ「当てにできる銀行」ではないと考えている方がいるとすれば、そのような銀行は、確かに、日本にはないということも事実です。
2023/9/7 No.2458