鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

メインバンクを持つことが最優先

[要旨]

融資を受けるとき、金額や金利などの条件で取引銀行を決める経営者の方は多いと思いますが、それらだけに気をとられていると、いざというときに、メインバンクとしての役割を担ってくれる銀行を持つことができなくなるので、注意が必要です。


[本文]

先日、高い視聴率を得ているテレビドラマの、半沢直樹の第7話を視ました。その中で、国土交通大臣から、帝国航空への債権放棄を求められた銀行が、それに応じるかどうか、回答するシーンがありました。回答は、シェアの少ない銀行から順に始めたのですが、いずれも、「帝国航空のメインバンクである、開発投資銀行の方針にしたがう」というものでした。そして、最後に、開発投資銀行は、債権放棄に応じないと回答し、すべての銀行が債権放棄に応じないという回答をしたことになりました。このシーンは、よくも悪くも、日本独特の慣行である、メインバンク制度を表していると思いました。

1つの会社に複数の銀行が融資取引をしているとき、当然、銀行によって思惑は様々ですが、メインバンク以外の銀行は、メインバンクの方針にしたがうという、ちょっと変わった制度です。これは、すなわち、自社がピンチに陥ったときに、メインバンクが自社を助けるという方針を出してくれれば、ほかの銀行もそれにしたがってもらえるということです。ですから、融資取引については、特にメインバンクと緊密な関係をつくっておくことが大切です。

ちなみに、メインバンクは特定の銀行がなるものではなく、一般的に、融資取引のシェアで決まります。たとえば、A社にX銀行が2億円、Y銀行が1億円の融資をしているときは、A社の融資取引については、X銀行がメインバンクですが、B社にX銀行が5千万円、Y銀行が1億円の融資取引をしているときは、B社の融資取引については、Y銀行がメインバンクとなります。したがって、A社の融資取引については、Y銀行がX銀行の方針にしたがいますが、B社の融資取引については、X銀行がY銀行の方針にしたがいます。

また、メインバンクは、一般的には融資取引のシェアで決まると前述しましたが、そうなるとは限らないときがあります。たとえば、C社への融資額が、X銀行は5,000万円、Y銀行は6,000万円であるとき、融資シェアだけで判断すれば、Y銀行がメインバンクということになります。

しかし、X銀行はC社の最寄りの銀行であること、C社が創業した時からの取引があり、売上入金口座はずっとX銀行にあること、過去の融資取引のピーク時の融資額はX銀行が最も多いこと、不動産担保の差し入れはX銀行だけであることなど、融資取引額以外で、緊密であるという側面があるときは、X銀行がメインバンクになるということもあります。

ここまでメインバンクについて説明して来ましたが、なぜ、それを説明したかというと、複数の銀行から融資を受けている会社が、そのうちの銀行のひとつをメインバンクと認識していたとしても、その銀行からは、その会社のメインバンクとは認識してもらえないということもあるからです。

どういうときにそういう行き違いが起きるかというと、例えば、融資シェアが大きくても、取引を開始してからの年数が短い、融資取引があったとしても、経常的に融資申し込みがあるわけではなく、1本か2本程度の融資契約しかない、経営者は融資契約のときにしか銀行担当者と顔を合わせていないといったときなどです。

これは、メインバンクを親友、サブメインバンクを面識のある知人に置き換えて考えると分かりやすいと思います。親友であれば、ある程度の無理なお願いをすることはできますが、面識があるという程度の知人に対しては、頼みごとをすることも難しいと思います。

したがって、いざというときに、自社のピンチを支える役割を担ってくれる銀行は、単に、銀行と経営者が面識があるだけというだけでは、その役割を積極的に引き受けようということにはならないでしょう。そして、メインバンクを名乗り出る銀行がいなければ、他の銀行も、その会社を支えようとはしないでしょう。

会社経営者の方の中には、できるだけ多くの金額を、できるだけ低い金利で融資してくれる銀行をありがたいと考えている方も多いと思いますが、私は、それよりももっと大切なことは、いざというときに手を差し伸べてくれる銀行、すなわち、メインバンクの役割を担ってくれる銀行を持っておくことだと思っています。

では、メインバンクをどのようにすれば持つことができるかというと、決まった方法はありませんが、まず、メインバンクになって欲しい銀行に、定期的に訪問し、自社の業況や、今後の事業方針を伝え、同時に、「貴行には弊社のメインバンクになっていただきたい」とお伝えすることでしょう。

ときどき、他の銀行からセールスを受け、金利が低いなどの理由で、その銀行から融資を受ける例はあると思います。そのようなことが、必ずしも問題であるとは限りませんが、つまみぐい的な融資契約を頻繁に繰り返していると、いざというときに、どの銀行からもメイバンクとしての役割を引き受けてもらえなくなる可能性が高くなるので、注意が必要です。

f:id:rokkakuakio:20200913173930p:plain