鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

無借金経営は銀行支援を受けられない

[要旨]

航空会社のスカイマークは、無借金経営であったにもかからわず、2015年に民事再生法の適用を申請しました。もし、同社が銀行から融資を受けていれば、メインバンク制度によって主力銀行が同社を支え、民事再生法適用申請に至らなかったと考えることができます。したがって、資金が潤沢な会社であっても、あえて銀行から融資を受けておくことは、リスク管理の観点から有用と言えます。


[本文]

中京大学国際学部の矢部謙介教授が、ダイヤモンドオンラインに、航空会社のスカイマークが、2015年に民事再生法の適用を申請するに至った原因について寄稿しておられました。スカイマークは、エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄さんらによって、1996年に設立され、2000年に、東証マザーズに上場しました。その後、業績が低迷する中、2004年に、インターネットサービスプロバイダ会社のゼロの創業者だった西久保愼一さんが社長に就任し、経営の立て直しに着手しました。

その後、スカイマークの業績は回復し、国際線の定期便に参入するため、エアバス社の大型航空機のA380の調達を決定します。しかし、円安の進行によって、燃料費が高騰したり、米国通貨建てであった機材リース料が増加し、業績が再び悪化します。「スカイマークの(2014年の)貸借対照表を見ると、スカイマークは無借金経営だったことがわかる。一般的に、無借金経営は財務的な安全性の観点では良いとされているが、当時のスカイマークではそれが裏目に出た。スカイマークはメインバンクを持たなかったために、金融機関からの借り入れによる資金調達を行うことが難しかったのだ。

しかも、ボーイング737などの機材をすべてリースで調達していたため、航空機材を担保として借り入れを行うこともできなかった。また、投資その他の資産も航空機整備に向けた預け金が中心で、換金性のある資産はほとんど保有していなかった。その結果、2012年3月期に約306億4,800万円と潤沢だった現金残高は、2014年3月期には約70億6,500万円まで目減りすることとなる。このようにして資金繰りに行き詰まったスカイマークは、2014年4月に支払う予定だったA380の前払金約8億円を支払うことができなかった。

その結果、2014年7月にエアバス社がスカイマークに対して契約解除を通告し、併せてスカイマークは約7億ドル(当時のレートで約710億円)の違約金を請求される事態に陥ってしまう。この通告があった直後の2015年3月期の第2四半期報告書には、『継続企業の前提に関する事項の注記」(GC注記、ゴーイングコンサーン注記とも呼ばれる)が付された。西久保氏は後に、『(2015年3月期の第2四半期決算において)ゴーイングコンサーンの注記を付けられてしまった。そうなると増資もできないし融資も受けられない。そこからはあっという間でした』と語っている」

ゴーイングコンサーン注記とは、詳細な説明は割愛しますが、その注記がある会社は、事業の継続に疑義があるということを意味します。その後、スカイマークは、2015年に民事再生法の適用を申請するに至るわけですが、今回、この矢部教授の記事をご紹介した理由は、記事の中に、「一般的に、無借金経営は財務的な安全性の観点では良いとされているが、当時のスカイマークではそれが裏目に出た」と書かれていたからです。結果的に失敗したものの、A380を導入するという果敢な意思決定ができるのは、無借金経営の利点とも言えます。しかし、日本の銀行の慣行では、メインバンク制度というものがあり、業績不振に陥った会社は、メインバンクが他の取引銀行と利害調整をしながら、その会社を支えるという不文律の制度があります。

私は、このメインバンク制度を、100%支持するわけではないのですが、やはり、会社の突然の経営破たんを防ぐためには、メインバンク制度は、現在の日本では、依然として大きな役割を果たしていると思います。これは仮定の話ですが、スカイマークが無借金経営ではなく、銀行から融資を受けていれば、銀行が資金繰支援や営業支援を行い、民事再生法の適用を申請するまでに至らなかったと思います。私は、資金繰が良好で、資金調達が当面は不要な会社であっても、いざというときに支援を受けるために、お付き合い程度でも複数の銀行から融資を受けておくことは、リスク管理の観点から大切だと考えています。

2022/11/29 No.2176