鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

遊んでいるように仕事のできる会社

[要旨]

バリュエンスホールディングス社長の嵜本さんは、社員の誰もが持っているポテンシャルを引き出し、覚醒させることが、会社の非常に重要な役割と考えているそうです。一般的に、経営者には、利益や株価を高める役割があると考えられていますが、嵜本さんは、「遊んでいるように仕事のできる会社」をつくることができれば、自ずと、会社の業績や株価を高めることができると考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、バリュエンスホールディングス社長の、嵜本晋輔さんのご著書、「戦力外Jリーガー経営で勝ちにいく-新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」を読んで、私が気づいがことについて述べたいと思います。前回は、嵜本さんは、それぞれ個性の異なる2人の兄たちといっしょに事業を展開してきた結果、自分の得意分野を発揮することができたことから、自分の不得意な分野は無理して伸ばそうとせず、他人の力を借りることで、100%のチームをつくることが可能になると考えているということを説明しました。さらに、嵜本さんは、会社は従業員のポテンシャルを引き出す役割を担わなければならないということを述べておられます。

「社員の誰もが持っているポテンシャルを引き出し、覚醒させるのは、会社という組織の非常に重要な仕事です。これさえできれば、後は細かいことをいう必要はないとすら思います。覚醒した社員は、遊ぶように仕事を楽しみ、その結果、大いなる成果を出すからです。現状に不満を持ち、常に次の『当たり前』を目指す、こうした方針を、私は幾度となく社内で共有してきていますが、利益を最大化せよとか、株価を上げよとかいったことを語った経験は、一度もありません。経営者としては、それを求めるべきなのかもしれませんが、利益を増大すること、株価が上がることなどは、次の当たり前をつくり続けるという挑戦の『結果』でしかありません。

こうした挑戦を抜きにして、小手先で、利益や株価の数字を大きくしようとすることには興味がないのです。では、どうしたら起きることをポジティブに解釈でき、次の当たり前をつくろうという使命感を忘れず、結果として、利益を出せる『現状不満足集団』を形成できるか、私は、この会社を、『遊んでいるように仕事のできる会社』にすることだと思っています。遊びと言うのは、誰からも強制されるものではありません。やりたいから取り組むものです。その遊びの成果を世の中に提供し、喜んでもらえるようになれば、それが理想です」(204ページ)

嵜本さんが述べておられる、「遊んでいるように仕事のできる会社」は、米国の心理学者のリッカートの唱えた、システム4理論の中の、システム3:参画協調型か、システム4:民主主義型に近いものだと思います。ちなみに、システム3:参画協調型とは、「リーダーは部下の大部分を信用し、最終的な決定はトップが行うものの、個別的な事項に関する決定の権限は部下に委譲されており、さらに、コミュニケーションも確保され、部下の管理活動への参画も動機付けとなっている」という組織です。

そして、システム4:民主主義型とは、「リーダーは部下に全幅の信頼を置いており、意思決定も全員で行われ、かつ、コミュニケーションも確保され、組織としても統率されている」という組織です。さらに、リッカートの研究によれば、システム4の状態の会社が、最も業績が高いようです。このリッカートの研究結果を見るまでもなく、従業員たちが、まるで遊ぶように自発的に仕事をする会社の方が、業績がよいということは、ほとんどの方が直感的に理解すると思います。

しかし、自社の状態を、システム3やシステム4の状態にすることを目指そうとしたり、そのための努力をする経営者の方は少ないと、私は感じています。その理由のひとつは、会社をそのような状態にするには、経営者のスキルも必要だからであり、また、時間もかかるからだと思います。ただ、年を追って、「遊んでいるように仕事のできる会社」でなければ、競争に勝つことが難しくなりつつあることも事実であると、私は考えています。

2023/7/8 No.2397