[要旨]
プロサッカーチームは、観客を、直接、よろこばせるのは選手であり、監督は、選手のモチベーションを引き出し、パフォーマンスを最大化する役割を担っています。バリュエンスホールディングス社長の嵜本さんは、会社経営においても、サッカーチームと同様に、社長は、従業員満足度を高めることを通して、パフォーマンスを高め、さらに顧客満足度を高めていくという役割を担っていると考えているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、バリュエンスホールディングス社長の、嵜本晋輔さんのご著書、「戦力外Jリーガー経営で勝ちにいく-新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」を読んで、私が気づいがことについて述べたいと思います。前回は、嵜本さんは、社員の誰もが持っているポテンシャルを引き出し、覚醒させることが、会社の重要な役割であり、一般的に求められていると考えられている役割である、利益や株価を高める役割は、「遊んでいるように仕事のできる会社」をつくることができれば、自ずと果たすことができるようになると考えているということについて説明しました。
これに続いて、嵜本さんは、「遊んでいるように仕事のできる会社」について、それをどのようにして実現しようとしておられるのかについて述べておられます。「起業したばかりのころは、『顧客満足』ばかりが気になって、それ以前に重要な、『従業員満足』にまで思いが至りませんでした。しかし、それでは、選手のことを一切考えず、観客やサポーターのことばかりを気にしている(プロサッカーチームの)指揮官と同じではないか、ということに、あるとき気づいたのです。観客やサポーターを夢中にさせ、熱狂させるのは、指揮官ではなく、選手です。
では、選手のモチベーションを引き出し、パフォーマンスを最大化する起用は誰がするのか、それこそが監督の仕事です。SOU(現在のバリュエンスホールディングスの旧社名)では、いま、素晴らしい循環のあるチームのような組織を目指しています。そのための環境づくりにこそ、力を注いでいるのです。(中略)私はできるだけ、社員の話を聞くように心かけています。それも、一所懸命、聞くようにしています。その姿勢は、きっと、社員にも伝わり、聞いてもらえるなら話そうと思ってもらえることでしょう」(205ページ)
嵜本さんは、従業員満足度を高めることを通して顧客満足度を高めることが重要と考え、そのために環境整備に注力する、そして、そのための活動のひとつとして、従業員の話を真剣にきくということを実践しておられるということです。ただ、「従業員満足度を高めれば、『遊んでいるように仕事のできる会社』を実現できるのか?」という疑問をお持ちになると思います。私も、従業員満足度を高めることで、「遊んでいるように仕事のできる会社」を実現できるのかというと、100%そうなると言えるとは思いません。ただ、嵜本さん自身も、「遊んでいるように仕事のできる会社」を理想としていると述べておられるので、嵜本さんの本を書いている時点では、まだ、その理想を実現する途上にあるのだと思います。
ただ、嵜本さんは、バリュエンスホールディングスを、設立後、7年で上場を果たすど、会社を急成長させてきたことから鑑みると、嵜本さんご自身が、同社がまだ「遊んでいるように仕事のできる会社」になっていないと考えているとしても、嵜本さんのような考え方で会社経営に臨むことは、事業に好影響を与えていることは間違いないでしょう。そして、現在は、会社の業績を伸ばすには、経営者が先頭に立って部下たちを引っ張るというスタイルではなく、「遊んでいるように仕事のできる」環境を整備する役割、すなわち、縁の下の力持ち的な役割を担うスタイルになっているのだということを、改めて感じました。
2023/7/9 No.2398